ひと月ぶりに馬超が帰ってきた。遠征でしっかり役目を果たしてきた彼を、酒を片手に自邸へと誘ったのがその2日後。そして今日がその2日後で、現在は壊されそうな勢いで抱き潰されてぐったりと寝台に沈んでいるところである。
 ことを終えたあと、動く気力が残っていなかったため、羞恥を押し殺して後処理を頼んだというのに再びその気になった馬超にとどめを刺された。鬼か。
 そんなわけで今度こそ後処理を終えてうつ伏せになっている趙雲には、こちらの手を弄る馬超の手を振り払う力など残っていないのである。顔は馬超と反対の方向に向けているので、手から伝わってくる情報が全てだ。自分より温度の低い彼の両手は、完全に脱力した趙雲の右手を包み、そして指の1本1本を伸ばすように動いている。
 ある程度の期間を空けてから顔を合わせたとき、特に遠征のあと、彼は必ずこうして両手で趙雲の手を弄る。その仕草は迷子の子どもが帰る場所を探しているのに似ている。あるいはまるでこちらの存在を確かめているようだ。
すすす、と皮膚が厚くなった指――おそらく人差し指――が掌をくすぐるように撫でる。それがこそばゆくて思わず手を閉じるようとしたら、それを咎めるように再び指を丁寧に伸ばす。そしてゆっくりと、まるで意識させるように1本の指が滑る。
「孟起殿…こそばゆい」
 誰かさんのせいで憐れなほどに掠れた声で呟けば、クスクスと笑われて思わずむっとする。誰のせいだ誰の。
「子龍の手は温かいな」
「……子どものようだとでも思っているのだろう」
「まさか」
 再び笑われる気配。これは完全に相手のペースだ。
趙雲はこれ以上馬超に付き合うことを放棄した。というより体の末端までどっぷりと疲労に浸かっているのである。さすがにもう限界だ。
 沈みきる前、右手に込められた力はただただ優しかった。



実は一番初めに書いたやつ。

2013/3/19