このストーブは貧弱だなんだとケチをつける馬超のしつこさに根負けした趙雲が買ったのは、ガンガン暖まる煙突式のストーブではなく少し大きめの炬燵セットだった。
 そもそもこんな暖かい地域では馬超に馴染み深い煙突式のストーブなどいらないのだ。今ある小型の石油ストーブで十分である。しかしそれでは馬超の文句は収まらないだろうと少し奮発したのだった。正方形タイプのテーブルではなく、二人で使うには少し大きい長方形にしたのはただ単にできるだけ余裕を持って埋まりたいという個人的な希望だ。どちらも四捨五入すれば190センチの男なので正方形だと足を伸ばせば反対側から飛び出てしまう可能性がある。身長が高すぎるのもいろいろと不便なのだ。
 そんなこんなで趙雲が炬燵セットを買って帰った時の馬超の様子はそれはもう面白かった。ストーブを見てくると出かけた男が明らかにストーブではないものを買って帰ればそりゃ驚くだろう。居間でいそいそとテーブルを組み立てる趙雲の周りでそわそわと落ち着きなかった彼に笑いを耐えながら作業した趙雲である。

 それが約一ヶ月前の話。現在、趙雲は内心で込み上げてくるものを必死に抑えていた。それでも表面上では引き攣ることなく穏やかな笑みを浮かべていられるのは日頃の成果である。
 にこにことしながらサインして箱を受け取る。しかしぱたん、と扉が閉まった途端、趙雲はキッと背後を睨みつけた。正確には居間でぬくぬくと炬燵に埋まっている同居人を、である。
「馬超!!」
「…ん?」
 彼がのろのろと上半身を炬燵から出し身を起こしてこちらを向く。趙雲は馬超がそうしているうちに居間まで早足に移動すると、彼の目の前にどさりとたった今受け取った箱を落とした。
 箱の側面にはオレンジの丸、その上にはみかんの文字。それが目の前に降ってきても馬超は驚かなかった。その代わり目を輝かせる。
 ああダメだこりゃ。
 趙雲の脳裏には瞬時に諦めの言葉が浮かんだ。この目をした馬超に何を言っても無駄である。経験からよくわかる。
 次々と浮かんだ異口同音の諦めの言葉のあと、敗北の文字が浮かび上がった。
 しかしながら言うことは言わねばならない。次の被害が最小限で済むために努力はしなければならないのだ。たとえそれが無駄なことであったとしても。
「買うのはいい。だがこの量をどう始末するつもりだ」
「全部食べるに決まっているだろう。それ以外に何がある」
 当然、と言わんばかりの返事をしながら、炬燵に下半身を埋めたまま、器用にガムテープを剥がしにかかった馬超にはさすがの趙雲も堪えられなかった。
「終わる前に腐るだろう!」
 べしっと思わず頭を叩いてしまうのは仕方ないことだった。


炬燵を買ったのは趙雲の独断だったけど虜になったのは馬超だったという話にしたかったが逸れた

2014/12/11 雑記
2014/12/29 加筆修正