今年も冬がやってくる。それにともなって劉備の家にはある変化が起きていた。 趙雲にとってはさほど大きな変化ではないのだが、彼にとっては大きな変化である。 その彼はそろそろやってくる頃だろうか。 ストーブの前を陣取って寝そべっていた趙雲はゆるりと立ち上がると、鼻と前足で器用にふすまを開けて廊下に出た。居間とは打って変わって冷たい空気が趙雲に刺さる。いくら趙雲がたっぷりとした毛皮を纏っていても寒いものは寒い。特に足裏から伝わってくる廊下の冷たさは尋常じゃない。 自然と早足になりながらも趙雲が向かったのは座敷の先にある縁側だ。大きな両引き戸の窓は、日中は一箇所だけ鍵が開いている。小さな訪問者のためだ。そしてその小さな訪問者はすでに縁側の窓の前の地面で毛玉になって待機していた。 もそもそと再び鼻と前足を駆使して窓を開けていると、とたんに毛玉は反応した。 埋めていた鼻先をすぐさま趙雲の方へ向けて立ち上がった。尻尾もぴっと立ち上がり、先端がこちらを向いている。何に関心が向いているのかそれだけで分かってしまい、趙雲は内心でくすくすと笑う。そして隙間ができた瞬間、すぐさま中に飛び込んできた。 『やあ、もしかしてだいぶ待たせたかい?』 『……いま来たところだ』 そのまま奥へ歩いて行かないのは外を歩いてきたからだろう。彼は好き勝手に振る舞っているようで、いつも細かなとこに気を配っている。 ぴったりと窓を閉めてから身をかがめると馬超は遠慮無くこちらの鼻を踏み台にして頭に上り、背中にするすると移動した。そしてもふもふの毛に身をうずめる。 『君って調子いいよねぇ』 『うるさい早くしろ』 『それと優しいよね』 『早くしろと言っているだろう』 じわりと伝わってくる温度は冷たい。それを指摘すれば、たしたしと小さな前足で叩かれる感触。はいはいとおざなりな返事をすると趙雲は居間に移動した。 「お、馬超が来たのか」 視線を落として集中していたようであった劉備は、ごそごそとふすまを開けた趙雲にすぐさま気づいた。温かな笑みを浮かべる劉備にひとつ吠えて返事をすると、背中でもぞもぞと動く気配がした後ににゃあ、と小さな鳴き声が聞こえてきた。失礼する、と趙雲の耳は拾ったが、劉備の耳には鳴き声がそのまま聞こえたことだろう。 彼は手にしていた編みかけをテーブルに置くと、立ち上がって部屋から出て行った。しばらくして戻ってきた彼の手には固く絞ったタオル。 劉備は馬超の体をそっと抱き上げると、ストーブの前に座り込んで足の裏を拭いてやる。小さな足の裏が綺麗になった途端、馬超はするりと劉備の手から抜け出すとテーブルに弾丸のように駆けていく。 テーブルにはこたつ布団がかけられていた。 「この季節になると馬超は嬉しそうだなぁ」 もそもそと潜り込んでいく馬超の尻を眺めながら、劉備もまた嬉しそうに笑う。趙雲はあまりこたつは得意じゃない。どちらかと言うとストーブにじんわりと温められるか、あまりに寒さが厳しいときに出てくる電気カーペットの方が好みだ。 このこたつはある意味で馬超のために出ているようなものだった。ある年に劉備がたまたまこたつを出したところ、毎日のように劉備の家に入り浸るようになったのだ。それからは毎年冬になると劉備の家ではこたつが出現するようになったわけである。 ちなみに馬岱のところはヒーターのみで、馬超は口には出さないものの不満であるらしい。そのため劉備がこたつを出すと、教えてもいないのに察知してやってきては中で満足そうに丸くなるのであった。 劉備もこたつに足を入れると編み物を再開する。趙雲もストーブの前を陣取るとぺたりと寝そべった。 このあとしばらくして馬超がうとうとし始めた頃に劉備はこたつ布団を持ち上げてケータイを構えるのだろう。そして逃げ出した馬超はちょうど帰ってきた阿斗に捕獲され、そのまま撮影会になるに違いない。 その光景を頭の中に描きながら趙雲はあくびをひとつこぼして目を閉じた。 趙雲が予想した通りの光景が繰り広げられるのはきっかり1時間後のことである。 そんなことはつゆ知らず、小さな猫はこたつの中でぬくぬくと満足そうに温まっているのだった。 せっかく猫だからこれだけは書きたかったこたつ話。 うちの実家にいるちびちゃん(犬)はこたつ大好きですがさすがに趙雲サイズだとこたつはいれないよね。ゴールデンは無茶だ 2013/11/17 |