※趙雲と馬超(現パロ)



 にゃあ、と小さな声がした。
 直後、すりすりと足に擦り寄る感触。趙雲が足元を見ると、白に黒の模様がついた近くの黒猫よりも、少し小さな猫が足に懐いていた。驚かせないようにゆっくり動いて傍にあったソファに座ると、その猫はひょいと音を立てずにソファに跳び乗り、そのまま趙雲の膝の上に収まる。
「う、わ……」
 これまで動物と縁のない生活をしてきた趙雲からすると、自分の傍に寄ってくるだけで驚きである。それが膝の上に乗ってくるとなるとどうしていいかわからない。
 中途半端に上げた手をうろうろと彷徨わせている間に、猫はくわりと小さな口であくびをする。
 そっと、驚かせないように。
 心の中で言い聞かせ、恐る恐る猫の背中に手を置く。伝わる柔らかな感触に、むずむずとした何かが押し寄せてくる。そのまま毛並みにそって優しく撫でてやれば猫はぺたりと顎を趙雲の膝につけて昼寝の体勢になった。気持ちいいらしい。
 触り心地の良い毛並みを堪能しながら、趙雲は今日ここへ誘ってくれた男に感謝した。

 馬岱に教えてもらったのだ、と助手席に乗った馬超のナビ通りに車を走らせた先にあったのが、少し前にオープンしたという猫カフェであった。趙雲も話ぐらいは耳にしたことがあった。これがなかなかの人気ぶりで、予約しないと待たずに入ることはできないのだとか。そのためもあって興味を持ちつつも足を運んだことはなかった。
 馬超のことだから思いつきで来たのか、とも思った趙雲であったが、驚くことに予約したうえでの来店だった。彼も計画的に動けるのだな、と考えてしまったことは口にはしなかった。

「なんというか、人気者だな馬超は」
 ぞろぞろと後ろに猫を連れて行進しながら戻ってきた馬超に趙雲は苦笑する。馬超の周囲には、今部屋にいるうちの半分近くが寄ってきている。これで餌を持っていないのだから驚きの一言だ。
「昔から動物には好かれる。猫も例外ではなかったか」
 隣に座った馬超の膝にはすぐさま貫禄のある虎猫が陣取る。左右も足元も猫、猫、猫。ここまでくると猫使いだ。馬超が穏やかな顔で、両手を使ってわしゃわしゃと猫たちを撫でると、その手に他の猫がじゃれつく。少し痛そうだが彼は特に表情を変えなかった。
「そこまで好かれていると羨ましいを通り越してすごいとしか思えないな」
 馬超と趙雲の隙間に体をねじ込んできたロシアンブルーをするりと撫でると、その猫はちらりと趙雲を一瞥した後興味なさげにそっぽを向いた。やはり馬超でないと駄目なのか。
 笑った直後、みゃあん、と膝の上から催促されて、慌てて今度はそちらをなでる。何故なのかはわからないが相当好かれているらしい。そんな趙雲の様子を見ていた馬超は口角をあげて、意味ありげに趙雲の膝の上を見やる。
「趙雲は美人に好かれるようだが?」
「美人……てこの子はメスか?」
「そのようだな。……モモという名前らしいぞ」
「へえ、お前はモモというのか」
 膝の上の猫の頭を優しく撫でてやるとぐい、と頭を持ち上げてぐりぐりと押し付けてきた。甘え上手だな、なんて笑っていると、ふいに何かが馬超とは逆の方から擦り寄ってきた。何か、とは言ったものの、勿論猫である。黄色に寄った明るい茶色のもっふりした猫がちょこんと座っていた。
 それもメスだな、と馬超が腹を見せた猫をぐりぐりと可愛がりながら言う。
「お前はメスにモテるのか。妬けるな」
「いやそんなはずは……。そもそも妬けるはこちらの台詞だ。それだけ懐かれていて」
 うにゃあ、と気の抜ける声で催促するもっふりした猫は、しかしながら趙雲が手を伸ばすとさっと立ち上がってソファから下りる。あ、と声を漏らして手を引っ込めるとまたソファに乗ってうにゃあと一声。
「……?」
「勝手に甘えたいだけだろう。放っておけばお前の腕にじゃれると思うぞ」
 うにゃみゃあにゃあんと騒ぎの中心にいる男に言われると説得力があった。その彼の足元ではじゃれたり寝たりと様々だ。猫の個性が見える。
 馬超の助言通り、気難しい女の子から顔を逸らすと膝の上の女の子を撫でる。一拍おいてから、空いている方の腕に擦り寄って、うにゃうにゃとじゃれ始めた。
「馬超は猫の言葉がわかるのか?」
「いや、わからんぞ。なんとなくだ」
 なんとなくで意思疎通できるのはやはり天性のものなのだろうか。どこぞの牧場に行った時もすごかったと聞いたことがある。いやしかし、それとも、
「女心はよくわかるのか……」
「何失礼なことを考えているんだ」
 声に出ていたらしい。鋭く睨まれて、これ以上余計なことを言わないうちに口を閉じる。手まで飛んできてはたまらない。
 鼻を鳴らした馬超は視線を猫に落とし、ぼそりと呟く。
「俺は犬の心の方が知りたいがな」
「は?」
 なんでまた。しかし聞いたところで答えてくれないのが馬超である。かわりに犬と触れ合えるところがあったかなぁと考える。
「犬カフェなんてものはないのだろうか」
「……お前は、これだからまったく……」
 心底呆れたような馬超の声に違うのか?と尋ねると、自分で考えろと素気ない。やはり答えてくれなかった。
 帰ったら犬と触れ合える場所を探してみよう、と考えつつ、とりあえず膝の上の猫を愛でることに決めたのだった。






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