2

「なんでもいいけどなんでもよくない」
といった私に、わかる。と一言頷いてくれたバーナビーと買い物にきている。
ネイサンのアドバイスのお陰で決まった部屋には家具はついていない。
トランク一つでやって来た私はとにかく全部買いそろえないといけないのだ。

大きな家電量販店で次々と買うものを決めて行く。
サービスマンはこちらの質問に淀みなく返答してくれる。
バーナビーがここなら間違いない、と言った通りだった。
たとえば、このサイズの冷蔵庫の中で冷凍庫が一番大きなもの、とか、ほとんど同じ機能なのにこちらの方が値段が高いのはなぜか、とか。
大体2,3の質問で買うものは決まる。
ほぼ即決したけれどテレビ売り場で足が止まる。
録画…
隣にいるバーナビーの腕を引く。
「ねえ、HERO TVって放送時間きまってないんだよね?」
せっかくだからバーナビーが出る番組は見たい。
「そうですね。事件が起こる時間が決まっていませんから」
サービスマンがにこやかに言う。
「大丈夫です!いつ放送されても録画してくれる機能があります!」
おお、すごい。
ヒーローファンは多いですからね、見逃さないためには大事な機能です。と力説するこの店員さんもヒーローファンなんだろうか。
録画容量の参考のためにHERO TVの放送頻度を聞くと即答だった。
ガチなやつだ。ありがとう。

2時間足らずで全ての家電の買い物を終え、気持ちいいほどの即決でしたねとサービスマンのいい笑顔に見送られてお店を出た。
休憩にコーヒーショップへ入る。
クリームとキャラメルシロップの甘さが体に広がり疲れに気づく。
「バーナビーは見ているだけでつまらなかったよね?付き合わせてごめんね」
バーナビーはマグカップから顔を上げて小さく笑う。
「全然。買い物しているリンを見てるのは楽しかったですよ」
それならいいけど。とほっとする。
「リンらしいなあって思いながら眺めてました」
私らしい?
「僕がリンと一緒に過ごした時間ってまだとても短いでしょう?でもリンと交わした会話は多い。僕が捉えてイメージしているリンと実際のリンの差が埋まる、というか。うーん…言葉で明確に表現するのは難しい」
「それってバーナビーが思ってた私と違った!っていう風にはならないの?」
先日のいつから私のことが好きだったのか、という話を思い出す。
ひみつ、って言ってたけどそれは私がSBヘ来た時じゃないってことだよね。
画面の中のやり取りで思い描いた私とは違った時に好きじゃない、ってならないのかな?
「僕の知らなかったリンに出会うと楽しい。イメージが修正されてよりリンに近くなる。その度にリンが僕に近づく。イメージとあった時はもっと近づく。どっちも嬉しい」
バーナビーの言葉を頭の中で三回くりかえしてやっと理解した。と同時に顔が熱くなる。
「リン、この店暑いですか?でましょうか?」
そうじゃない。
バーナビーって無自覚でストレートにすっごく恥ずかしいこという。
恨みがましくこぼした言葉はバーナビーには聞き取れなかったようだった。
大丈夫、とだけ返してトッピングクリームの溶けたキャラメルマキアートをすすった。

次はベッドですね?と買い物リストを確認するバーナビーにこの間から気になっていたことを問う。
「あのさあ、バーナビーってヒーローじゃん」
それがなにか?と小首をかしげるバーナビー。
ああそれかわいい。
「私と買い物とか食事とか行って大丈夫なの?」
バーナビーのこれまでの情報の中にはスキャンダルとまでは行かないが女優とのスクープみたいなものは少ないけれどあった。
さっきの店員だってヒーローファンだったし、ヒーローで顔出ししているのはバーナビーだけだ。
だけど一緒に外出している時に声をかけられたことはない。
そんなようなことをかい摘んで説明する。
「プライベートのときは変装しているので」
え?それで?
ちなみに今日のバーナビーは黒のジャケットにダークブラウンのパンツ、眼鏡はワインレッドのハーフリムでかっこいい。
髪型はちょっとだけくくっている。
見る人が見たら普通にバーナビーって分かると思うんだけどなあ。
「プライベートだと気づいてもそっとしておいてくれるんです。SB市民は」
その変装でどのくらい騙せてると思う?と聞くと、半分くらいですかね、と笑った。
「いい街だね」
バーナビーは誇らしげに微笑んだ。
外でうっかり手をつないだりしないように気をつけるよ、というと
あ、うん。と顔を逸らした。
横を向いたせいで私の正面に向いた耳がほんの少し赤い。
こんな風にちょっとしたところで爆弾を落とすバーナビーに私はどうしていいのかわからなくなってしまう。
前回SBに滞在したときはとってもスマートにエスコートしてくれた。バーナビーもコニーも。
こんな素振り一切なかったのに。
知らなかったバーナビーの一面はイヤじゃなくてみる度にどきどきする。
さっきのバーナビーが言っていたのってこういうことかな?
暴走するいろんなものを押さえるようにマグカップを持ち上げて中身を飲み干した。




[ 20/23 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む][トップページ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -