店に自動販売機が突っ込んできた。


***


あたしが江戸から"池袋"にやってきて既に一週間が経とうとしていた。最初こそ何が何だか訳が分からなかったが、どうやら自分は結構…というかかなり順応性が高いらしい。
今では立派にファミレスでバイトを始め、住まいはチンピラに絡まれていた女性を偶然助けたところ、彼女がアパートの大家だったということで格安の家賃で住まわせてもらっている。

そしてこの間に分かったことはこの池袋には関わってはいけない奴らが何人かいる事。
そのうちの二人、池袋一強いとされる平和島静雄と情報屋の折原臨也。他にも池袋での初めての友人からたくさんのことを聞いたが(…なんだっけ?カラーギャングだとか、ダ、ダラ…ダラダラーズ?だとか)今は置いておくとしよう。
では何故、平和島と折原の名を出したのか。それはこの話の冒頭に関係するからだ。


***


"店に自動販売機が突っ込んできた"
これが今のあたしの状況。言葉通り、あたしのバイト先のファミレスに何故だか自販機が窓を割って突っ込んできたのだ。全く持って意味が分からない。
あたしが店の外へと逃げていく客や店員たちをぼーっと眺めていると、二人の男の声が近くで聞こえた。


「あーあシズちゃん、店壊しちゃってさー。あの子呆然としちゃってるじゃん」

「ああ゙?テメェが避けるからだろうが!」


ナチュラルにあたしを巻き込むんじゃねーよ。そんな言葉が喉まで出かかったが、あたしはなんとか押さえ込んだ。
彼らは一瞬だけこちらに意識を向けるもすぐにあたしの存在は彼らの頭からログアウトしたようで、金髪グラサンが黒髪イケメンに向かって手当たり次第に店の物を投げつけていた。
なんか神楽と総悟の喧嘩みたいだ。………ん?ちょっと待ってこれ。この店が使い物にならなくなったらあたしの生活どうなるわけ?
そこまで考えたあたしは次の瞬間、頭よりも体が動いていた。


『はーい、ストップ』

「「!」」


あたしが常に持っている木刀。それを彼らの間に突き刺した。
あたしの行動に対して金髪は怪訝そうな顔を、黒髪は愉しそうな顔を。それらに構うことなくあたしは息を吸った。


『あのねー…アンタら。喧嘩するんならどっか他のとこでやってくんない?こんな店の有様じゃバイトどころじゃないんだけど!?こちとら無一文からのスタートなんだよ!せっかく戸籍偽造してバイトまでやってるってのによォ!!』

「今サラッとすげぇこと言ったな」


一気に言葉を紡いだあたしは肩で息をする。金髪は怪訝そうな顔から若干引いたような顔になっていたが、やっぱり黒髪の方はどこまでも愉しそうだった。


「君、面白いね。まさかこの状況で首を突っ込んでくる奴がいるなんて思いもしなかったよ。おまけに俺たちに向かって喧嘩腰ときた。池袋にはまだまだ面白い人間がいるみたいだ」

『………そりゃどーも』


まあ、あたしは池袋の人間じゃないんだけども。内心でそう付け足しておいた。


『…じゃあ、あたしという邪魔が入ったということでかいさーん』

「あ?勝手に決めんな。俺は今日という今日はこのノミ蟲を殺さねぇと気が済まねーんだよ!」

「シズちゃんって本当短気だよね」

「殺す」

『オイそこの金髪。それはこの店のテーブルだろうが』


額に青筋を浮かべて店のテーブルを持ち上げる金髪。だから解散って言ってるだろーが。帰れよお前ら。
てか、さっきから思ってたけどこの金髪けっこうな怪力だよね。夜兎……ではなさそうだけど、何者?
あたしがそんなことを考えている間にも、金髪は黒髪に向かってテーブルを投げようとしていた。
………だからさー、


『やめろっつってんだろーがァァァアアア!!』


ドゴッだかバキッだかそんな音と共に金髪は店の外へと吹っ飛んだ。もちろんあたしが木刀で殴ったからだ。


『(………あ、やっちゃった)』


我に返ったあたしからはサーッと血の気が引く音がした。
ヤバい。どんどん面倒な方向へと進んでる気がする。だって黒髪の視線が怖い。何故そんなに愉しそうなんだアンタは。


「まさかシズちゃんを吹っ飛ばすなんてさすがの俺も思わなかったよ。これだから人間は大好きなんだ」

『……頭、大丈夫?』

「そのちょっと哀れみを込めた視線はやめてくれる?……ところで君、名前は?」

『そーいうのは自分から名乗るモンでしょ?』


あたしがそう言えば黒髪は、そうだよね、ごめんごめん、と笑った。


「俺は折原臨也」

『あたしは紅藤あげはだよ。………ん?オリハライザヤ?』


あれれ、その名前聞いたことあるぞ。しかも良くない意味で。


「じゃあ君の名前も聞けたことだし。シズちゃんが戻って来る前に俺は帰るとするよ。またね、あげは」

『いや、もう二度と会いたくな……っていねぇし』


あたしが折原の声に顔を上げた時、既に彼の姿はなかった。


「……テメェ、よくもやってくれたな」

『…げ、』


背後から聞こえてきた地を這うような低い声にあたしは思わず振り返った。
…そうだ、忘れてた。面倒事はこっちにもあった。


『……えっと、ほら…あたしも店を守らんと必死だったっていうか…ね。…あ、お詫びに手当てするから!』

「チッ………臨也は?」

『あー…折原?アイツなら言いたいこと言ってさっさと帰りやがったよあのヤロー』


あたしは救急箱を持ってきて、さっき木刀で殴ってしまったところを見せてもらう。


『……驚いた。あたし結構思いっきり殴ったのに、少し痣になってるだけじゃん』

「あ?まあ、そんなもんだろ」

『アンタの身体、鉄でできてんの?』


結局金髪の怪我は大したことはなく、湿布を貼っただけに終わった。つくづく神楽を思い出す奴だ。


『…はい、終了。悪かったね、殴っちゃって』

「いや、こっちこそ悪かったな。店壊しちまって」


申し訳なさそうな顔をする金髪は第一印象こそ良くはなかったものの、悪い奴ではないらしい。むしろ全く持って反省の意を見せなかった折原より随分とあたしの中では好印象だ。


「俺は平和島静雄だ。あんたは?」

『あたしは紅藤あげはだよ。………ん?ヘイワジマシズオ?』


あれれ、その名前聞いたことあるぞ。しかも良くない意味で。うわ、デジャヴ。


***


『―――そんなわけで折原と平和島の二人と関わった挙句、バイト先は滅茶苦茶になったわけだよ』


まあ、バイトは続けられそうだけどさ、と今日の昼間の出来事を思い出してため息を零せば、それまであたしの話を聞いていた彼女がPDAに文字を打っている。


≪…大変だったんだな、あげは≫

『ホントにね。まさかセルティから言われてた折原臨也と平和島静雄と関わりをもっちゃうとか…』


黒のライダースーツに猫耳ヘルメットの彼女、セルティ・ストゥルルソンは池袋に来てからの最初の友人だ。その伝手で知り合った岸谷新羅曰はく、セルティは人間ではなくデュラハンと呼ばれる妖精らしい。おまけに彼女には首がない。
最初見た時は少しばかり驚いたが、常日頃から天人を見ていたあたしにとっては然程気になることではなかった。そんな都市伝説「首なしライダー」の彼女と出会った経緯にもいろいろとあるのだが、今はそれは置いておこう。


≪静雄はともかく臨也に何かされたらすぐに言うんだぞ?≫

『天使か』

≪?≫

『あ、いや…こっちの話。でもね、セルティ……そうも言ってられないのだよ』

≪何かあったのか?≫

『んー…平和島とは自主的にメアド交換したからいいんだけどさ、折原にはメアド教えてないのに何故かメール来たんだよね…』

≪あー……≫


あたしが元から持っていた携帯はこっちでは使い物にならなかったので、今は岸谷からもらった携帯を使っている。その携帯にメールが来たのだ。折原からあたし宛に。一体どこであたしのメアドをゲットしやがったアイツ。


『……なんかいろいろめんどくさくなってきたな。もうどうにでもなれよ』

≪落ち着け、あげは。また何かあったら相談に乗るから≫

『天使か』


セルティの表情はわからないけれど、多分彼女は優しい笑顔をあたしに向けてくれたのだと思う。


『…さて、あたしはそろそろ帰るよ。手間取らせて悪かったね。それと…ありがと、セルティ』

≪あげはは大切な友達だから≫


PDAに表示された言葉にあたしはフッと笑う。本当いい友人を持ったものだ。
あたしはもう一度セルティにお礼を言ってその場を離れたのだった。




通り過ぎた花香り
(…なあ、今の見たか?帝人)
(………うん)
(まさかあの池袋最強を吹っ飛ばす女の子がいるなんて驚きだよな)
(そうだね…)


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デュラララ!!はアニメ知識(しかも途中まで)しかありませんが、書いてみたかったんですよね。24時間戦争コンビが好きです。
でもまだキャラの口調とか難しくて、皆誰これ状態に……。もっとキャラ出したかったけど、これ以上はダラダラ長くなりそうだったので断念。

最後の会話は帝人と正臣です。あげはが木刀で殴ったところを偶然見ちゃった二人です。
そして二人の他にも目撃者たくさんいますね、多分。何せ昼間のファミレスでの出来事ですので。そしていつの間にか非日常に巻き込まれていくみたいな、そんな感じです。


title:秋桜-コスモス-




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