帝光中学の二年生、黄瀬涼太は悩んでいた。それはもう大好きなバスケにも身が入らないくらいに悩んでいた。


「黄瀬君、最近何か思いつめたような顔をしていますが、何かあったんですか?」

「黒子っち……」


ある日の昼休み、黄瀬を見かけた黒子はここ数日の彼の様子が気になり思い切って聞いてみることにした。普段から騒がしい彼が大人しいのはそれはそれで気になるのだ。
黄瀬は黒子を見るなり「俺はどうしたらいいんスかー!」と黒子に泣き付いた。


「…何かあったんですか?」

「それが…俺ストーカーに付きまとわれてんスよ!!」

「………」

「え、何でだんまりなんスか黒子っち!?」


黒子は聞いたことを後悔した。黄瀬は人気モデルなのだ。それこそストーカーの一人や二人くらい…。


「違うんスよ黒子っち!ストーカーはストーカーでも生きてる人間じゃないんスよー!!」


うわーん、と黄瀬は黒子の肩に置いた手に力を込める。
ますます意味が分からない。黒子は素直にそう思った。生きている人間ではない?それはつまり、


「幽霊…ですか?」

「そう!だから俺どうすればいいか…!」

「………モデルの仕事が忙しいんですか?」

「いや、俺の幻覚とかそーいう類じゃなくて」


黒子の冷めた目に黄瀬はさらに涙ぐんだ。しかし幽霊と言われても黒子にはどうすることもできないのだ。

そこでふと思いついたのは数日前に掲示板の隅っこに貼ってあった紙。たしか頼めばなんでもするといった感じの内容だった気がする。


「黄瀬君、万事屋というところに頼んでみるのはどうですか?」

「万事屋…?」

「はい」


黒子はその紙に書いてあった内容と万事屋の場所を簡単に説明する。


「…ホントにそんなものがこの学校にあるんスか?」

「わかりませんが噂では実在しているそうですよ」


黄瀬はなんだか納得のいかないような表情を浮かべていたが「ありがと、黒子っち」と少し笑うと、その万事屋があるという3階の空き教室へと走って行った。


***


「ここだ……」


黄瀬は万事屋と書かれたプレートの掲げられた空き教室の前で呟く。中は、いや中だけではなく廊下もシンと静まり返っていた。


「失礼しまーす…」


声を潜めてそっと扉を開けた。
真っ先に目に入ったのは一人の少女。墨をこぼしたかのような漆黒の髪を腰まで伸ばしたその少女は黄瀬の声に反応し、扉の方を見た。


『あれ、お客さん?いやー珍しいねェ…まさか一日で二度も依頼が来るなんざ』

「あー…えっと、同じクラスの紅藤、さん…?」

『そーだよ。んで確かアンタはモデルの…』

「黄瀬涼太ッス」

『そうそう、それ』


あげはは一人納得したようにそう零すと、黄瀬にソファーに座るよう促した。彼女自身は黄瀬の向かいのソファーに腰を下ろす。


『今あたし以外出払ってんだけど、もう少ししたら戻ると思うから』


それまでに依頼内容を教えてくれる?
そう笑うあげはに黄瀬は今までの経緯を話した。もちろんストーカーが生きている人間ではないということも。

ガラッ
あげはが黄瀬の話を聞き終わったころ、教室の扉が開かれた。入って来たのは四人の男子生徒。


「うお!?また客か!?珍しいこともあんだな…」

「あ?コイツ…モデルの黄瀬じゃねェか」

「おい、いきなり感じが悪いぞ高杉」

「近くで見るとまっことイケメンじゃのう、木戸君は」

『黄瀬だよバーカ』

「(増えた……)」


四人の生徒、銀時、高杉、桂、坂本は部屋に入るとそれぞれ自分の思うように行動した。銀時と坂本はあげはの両隣に座り、桂は黄瀬にお茶をだし、高杉は窓際に寄りかかり黄瀬の様子を伺う。


『さて、邪魔が入ったけど「え、邪魔って俺ら?」話を続けようか』

「無視かコノヤロー」

「…でも幽霊なんてどうするんスか?退治?」

『ンなことあたしらができるわけないだろ!』

「えええええええ」


言い切ったあげはを黄瀬は呆然と見る事しかできなかった。これではどうしてここに来たのか分からないではないか。


「つーか、何?スタンド?スタンドが何だって?」

『幽霊って言えよ、ビビり』

「イヤイヤイヤイヤ別に銀さん怖がってるわけじゃないからね!?」

「金時、汗がすごいぜよ」

「銀だっつってんだろ!」


黄瀬そっちのけで騒ぎ始めるあげはたち。
まったくコイツらは何をやっているんだ。桂はため息を吐いて、黄瀬の方を見た。


「…黄瀬殿、幽霊と言ったな。それは今もこの辺りにいるのか?」

「いや…学校の中までは来たことはないんスけど、学校から出るとうちまでずっとついて来るんス。家の中に入っても声が聞こえるし…」

「なるほど…。確かに気味が悪いな」


表情を曇らせた黄瀬に桂は「嫌なことを思い出させてすまない」と謝罪を入れた。


「おい、あげは」



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