漆黒の髪を靡かせて横浜の街を歩く女が一人。その手には有名な菓子店の紙袋がいくつか抱えられていた。
鼻歌を口ずさんでいる彼女を遮るように携帯の着信音が鳴る。


『はいはーい…こちら紅藤』

<やあ、あげは。依頼は終わったかい?>

『まあね。あたしにかかりゃ依頼の一つや二つちょろいちょろい』

<それは何より。…ところであげは、私と一緒に心中でも『誰がするか』


あの自殺嗜好そのためだけにわざわざ電話よこしたのか。自殺嗜好もとい太宰治の電話を一方的に切ったあげははため息をこぼした。
いい加減あたしを心中に誘うのを諦めてもらいたいもんだ。内心ごちるあげははそのまま「武装探偵社」の扉を開けて中へと入って行った。
そしてある部屋の前まで来ると、彼女は躊躇いもなくそのドアを開けた。


『おーいたいた。アンタが噂の虎少年かー』


ベットの上で上半身を起こしている少年とその傍で椅子に腰かけている男が同時に彼女の方に視線を移す。
先に反応したのは眼鏡をかけた男、国木田独歩の方だった。


「あげは貴様…この大変な時に何してた」

『いやだな国木田。何ッて…依頼に決まってンじゃん』

「じゃあその両手いっぱいに抱えた菓子は何だ!!」

『……依頼のついでだよ』

「嘘吐け!依頼がついでだっただろう!?」

『違いますー。ちゃんと依頼終わッてからだったし』

「あ、あのー…どちら様ですか?」


突然部屋に入って来たあげはと国木田のやり取りを今まで傍観していた少年が遠慮がちに声を上げた。まさに鶴の一声。言い合いを繰り広げていた二人はピタリと止まると、少年中島敦の方を見た。


『ああ、ゴメンゴメン。あたしは紅藤あげは。この探偵社の一員だよ。よろしくー』

「あ、はい…。僕は中島敦です」

『太宰から聞いてるよ。新人の上にあの芥川に襲われたとか。災難だったねェ』


ヘラリと笑うあげはが本当に敦のことを災難だと思っているのかは定かではなかった。


「ふん、奴らは直ぐに来るぞ。お前が招き入れた事態だ。自分で出来る事を考えておけ」


そう言って国木田は敦に背を向けると部屋を出て行こうとした。あげはもそれに続こうとするが、ドアを開けピタリと止まった国木田に疑問符を浮かべる。何か言い忘れたことでもあったのだろうか。
彼はあげはたちに背を向けたままところで二人とも、と呟いて振り返った。


「先刻から探しているんだが眼鏡を知らんか?」

『「…………」』


沈黙。
あげはと敦はお互いに顔を見合わせた。『どうしようアレ』「知りませんよ!あげはさんが何とかしてください」『てか何あれボケ?ボケなの?』「いやあれ絶対国木田さん動揺してるんですよ」そんな感じで二人はしばし目で会話した後、あげはが気まずそうに口を開いた。


『あー…国木田さん?ここ、ここ』


ちょいちょいと指で示したのは頭。眼鏡は彼自身の頭の上にあったのだ。
再び沈黙が流れたのは言うまでもない。


***


敦が探偵社を出て行ったその頃、探偵社はマフィアの武闘派集団「黒蜥蜴」から襲撃を受けていた。襲撃と言っても探偵社の方が圧倒的に有利な状況に傾いているのだが。


「おいあげは!貴様の能力は戦闘向きなのだから見てないで手伝え!」


国木田は向かってくる敵を倒しながら、江戸川乱歩と与謝野晶子と共に談笑するあげはに怒鳴った。


『えー…あたしがいなくても十分やッていけてるじゃん』

「貴様が動けばもっと迅速に終わるだろう!」

『……めんどくさい』

「いいじゃないかあげは。手伝えば国木田君が奢ってくれるってさ」

『マジでか』


乱歩の言葉に目を輝かせたあげはは座っていた机から降りるとマフィアたちの前に立った。まるで相手を挑発するかのような笑みを浮かべて。


『―――おいで、黒姫』


あげはがそう呟くとすぐに一振りの日本刀が現れた。彼女は慣れた手付きで刀を抜く。その柄も鍔も鞘も刀身までもが黒色の刀を。


『却説(さて)、始めようか』


あげははマフィアたちに向かって刀を薙いだ。

そこからのマフィア撃退は早く、敦が探偵社の扉を開いたのと国木田がリーダーらしき男を倒したのは同時だった。


「おお、帰ったか」

『お帰り敦』


予想していた事態とは全く正反対の反応を示したあげはと国木田に敦は戸惑いを隠せなかった。そんな彼の考えをよそに国木田は敦に向かって部屋の片づけの手伝いを要求。挙句の果てにはマフィアたちを窓から棄てていく。
探偵社のほうがぶっちぎりで物騒じゃん……。敦はこれらの光景を見てそう感じた。


『どーしたよ敦。ボーッとしちゃって』

「いや……。それよりあげはさんの持ってるその刀は…?」

『ああ、これ?あたしの能力「黒姫」だよ。いつでもどこでも自在にこの刀を出すことができるのさ。……ただし一度出したら断固として二日は消えないけど』

「断固として!?」

『しかも何処かに置いて行っても気付いたら傍にあるンだよねー』

「それ能力っていうよりもはや呪いですね」


アハハと笑うあげはを引きつった表情で見つめる敦。


『だからなるべくこの能力は使いたくないンだよね。日本刀なんて持ッて街に出たら職質されかねないし』

「職質で済めばいいですけどね」


むしろ現行犯で逮捕されるんじゃ…?という言葉を敦は心の中に留めておいた。


「あげは、早く手伝え」

『はいはい』


国木田に呼ばれたあげはは片付けをしている人たちの方へと歩いて行った。
敦にこれからもよろしく、と言葉を残して。




青春ぜんぶ、君にあげるよ
(あれ?そういえば谷崎とナオミは?)
(与謝野先生が治療していたが…)
(あ、あー…ご愁傷様…)


−−−−−−−−−−−−−
文豪ストレイドッグスでした。
最近ハマってるんですよ文スト!皆カッコよくて好きです。本当は谷崎君も出したかったのに出せなかった…。

この話は銀魂と混合にするか元からあげはが文ストの世界にいたことにするか迷ったので「?」にしておきました。

ついでに簡単な設定を載せておきます。
紅藤 あげは

能力:黒姫
 自在に刀を出すことができる。全てが黒色の刀。
 ただし一度出したら二日は断固として消えない。どこかに置いて行っても気づいたら傍にある。(中島曰はくもはや呪い)

年齢:20歳

身長:165cm

好きなもの:甘いもの、可愛い女の子、賭け事

嫌いなもの:面倒くさいこと、苦いもの


title:たとえば僕が




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