一人のポートマフィア構成員が姿を消した。一週間後にまた一人。そしてまた一人。
一月が経つ頃には既に五人もの構成員が何の痕跡も残さず、忽然と消えた。


***


「…で、手前に白羽の矢が立った、と」

『そういうことになるねェ…。ああ、全く面倒なことだよ』


ボスンと目の前にあったソファに腰を下ろした私は上司である中也の前であるにもかかわらず、盛大に溜め息を零した。まあ、上司と言っても其れは形式上のもので実際私と中也は同期のようなものだが。
先程首領ボスに呼ばれ、告げられたのはここ最近で起きている構成員失踪の件について早急に解決せよとのことだった。


抑々そもそもこういうのは私ではなく幹部に任せるべきだよ。例えば中也とか中也とか、あとは中也とか』

「全部俺じゃねェか」

『なんで私に任せるかなァ、あの首領』

「そりゃ手前が何の役職ポストにも就いてないくせに、幹部同等の実力があるからだろ」

『買い被りすぎだよ。確かにそこらの異能力者に負ける心算つもりはないけれどね』


要するに動かしやすいんだろ。中也は淡々とそう言った。
まあ確かに私は中也の右腕と自称しているものの、実際は幹部どころか准幹部ですらない。幹部を動かすのは気が引ける、その点幹部に負けず劣らずの実力を持つにも関わらず、一介の構成員である私の方が動かしやすいのだろう。先刻さっきも言った通り幹部同等の実力というのは言い過ぎだとは思うけれど。


『あーあ…厄介事引き受けちゃったなァ』

「…どうせ手前の事だ、ヘラヘラしながら終わらせんだろ」

『中也は一体私をどんな風に見ているのさ』

「腹立つ女」

『うわあ、傷付く』


そう言って顔を両手で覆って泣き真似を見せれば、鼻で嗤われた。中也は私をもっと労わるべきだ。
酷いなァ、何て呟いて私は重い腰を上げる。


「行くのか」

『うん、まずは消えた構成員たちが最後に目撃された場所を順番に回ってみるよ』

「そうかよ。……香月、」

『んー…何だい、中也』

呉呉くれぐれも油断するなよ」

『嬉しいなァ、心配してくれているのかい?』

「アア?忠告だ、忠告。俺の部下がヘマしましたーなんぞ笑い話にもなりゃしねェからな」


中也はそう言って心底嫌そうに顔を顰めるけれど、何だかんだ言いつつも私に対して甘いのは知っているのだ。なんせ彼とは長い付き合いなのだから。


『じゃあ行って来るよ』

「おお、疾く行け」


中也の顰めっ面を最後に、私は部屋を後にした。


***


『…………』

「やあ、香月。ちょうどいい処に来てくれたね」

『…聞いても無駄だとは思うのだけど一応聞いておこうか。何しているのだい、太宰』

「いやね、この場所が自殺に『ああ、もういい。大体把握した』


さすがは私の親友だ、なんて愉しそうに笑うのは元ポートマフィア幹部、現武装探偵社社員である太宰治だった。自殺嗜好の彼は私が通りかかった道の隅で、例にも漏れず自殺を図ろうとしていたらしい。どうせこの場所が自殺に最適だったとか言い出すのだろう、この包帯野郎は。


「それで?君は最近起きている失踪事件の事でも調べているのかな?」

『さすが太宰、私の親友』


先刻の太宰と同じようなことを言って笑えば、向こうも同じように笑った。


『君が気に掛けているということはこの事件、只の失踪事件ではないね?』

「ご名答。恐らくは異能力者の仕業だろう。マフィアだけでなく一般人も数名行方不明になっている」

『それはまた…』


厄介だな。
私と太宰の声が重なった。如何やら私の心情を見透かされていたようだ。


「まあ、私も何か情報を掴んだら君に教えるよ」

『そうしてくれると助かるよ』

「香月、」

『何だい?』

「気を付けた方がいい」

『言われなくても』


何故だろうか。気を付けろと言った太宰の顔が、部屋を出る前の中也と重なった。


***


太宰と別れた後、私は資料を基に構成員が消えた当日の足取りを追って行く。
最初の一人目はこの場所で姿を消した。二人目は此処より北西に少し行った処、三人目は…。


『ん?』


不意に私の視界の端に映ったのは四角い箱のようなものだった。其処まで大きくはない黒く四角い何か。其れがひどく私の目に焼き付いた。


『これは…』


一歩。其の何かに向かって一歩踏み出した時だった。
ぐにゃりと視界が歪んだ。


『――ッ』


ああ、不味いな。
何処か他人事のように自然とそんな言葉が零れた。次第に降りてくる瞼の裏側に映ったのは大事な上司と親友の顔だった。ああ、御免よ。油断していたのだろうな私は。
そこで私の意識は闇に沈んだ。


―――この日、六人目のポートマフィア構成員が姿を消した。




望むなら約束をひとつだけ




今日も今日とて先輩に扱かれた部活帰り、俺が少し入り組んだ路地裏に目を向けたのは全くの偶然だった。


「(はあ!?人!?)」


街灯にも照らされていない路地裏の奥、そこに座り込んでいたのは一人の女だった。目は閉じられていてわからないが、長い黒髪に黒のロングコート、細身のパンツ、靴までもが黒一色の彼女は、夕暮れの中ひっそりと存在した。


「(怪我、とかはしてない、し…起こした方がいいよな?いや、警察とか呼んだ方がいいのか?)」


俺が彼女の目の前で逡巡している間に、いつの間にか彼女は目覚めていたらしい。俺を見つめていた視線と俺の目が合った。
あ、目の色も黒だ。なんて呑気なことを考えている俺に向かって彼女は一言。


『君、誰?』


それはこっちのセリフですが。


『…というか何処だい、此処。横浜、だよね?』


此処は東京ですが。
俺は何だか気が遠くなるよな心地がして目頭を押さえた。

―――これが俺、高尾和成と黒の彼女、黒瀬香月との出会いである。
ここから奇怪な出来事に巻き込まれていくことを俺も、彼女も、勿論知る由もないことだ。



―――――――――――――
夢主の設定はこれ
そんでもって×黒バスです。高尾動かしやすいです。秀徳メインにいろいろな学校と夢主を絡ませていきたい。
文ストキャラとも絡ませたいけど…文ストキャラは言葉遣いが難しいです。
この後夢主は高尾の家に居候する予定です。ご都合主義です。


title:たとえば僕が




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