※よくあるブラック本丸ネタです




「初めまして、紅藤あげは様。貴女はこの本丸の審神者に選ばれました」


突然連れて来られた先にいた目の前の狐は、あたしに向かってそう言った。


『……いや、意味が解らない!』


西暦2205年、政府は歴史改変を目論む歴史修正主義者に対抗すべく、「審神者」と呼ばれる人間と「刀剣男子」と呼ばれる刀剣の付喪神を各時代に送り込んでいる。その審神者の一人としてあたしは選ばれたらしい。


『何であたしが選ばれたんだか…』

「それは、貴女様が暇そうだったので…」

『暇そうだったので!?』


え、何。そんな理由であたしこんな面倒事押し付けられてんの!?しかもあたしさっきまで仕事中だった!立派に依頼としていなくなった飼い猫探してた!!そんなに暇そうに見えた!?
そもそもそんな理由で審神者って選ばれるものなのだろうか。政府がとかいうからもっとお堅いものだと思ってた。……それにしても、



『ねえ、』

「はい、何でしょう審神者殿」

『ここの本丸とやらは随分と閑散としているというか殺伐としているというか…。前任の審神者から刀剣男子たちも引き継いでるんだよね?本当にそんな奴らここにいるの?』


案内役の狐、こんのすけに本丸の中を案内してもらいながら何気なく思ったことを口にする。此処の本丸はあたしの前に別の審神者がいたらしいのに、外の畑は荒れ果てているし、一つ一つの部屋も本当に人が住んでいたのかというくらい手入れが行き届いていない。
あたしの言葉にこんのすけはぴたりと足を止め、振り返った。何なのさ、その泣きそうな表情は。


***


ある一室の襖を開けると嗅ぎ慣れた血の臭いと、向けられる殺気。中にいたのは数人。見た目は様々だが、共通していることは全員怪我を負っているということ。…この禍々しい殺気を放ってるのが、この先あたしが共に過ごす刀剣男子、か。初対面でここまで露骨にされるとさっそく心が折れそうだよコノヤロウ。
あたしは重い溜め息が零れそうなのをグッと我慢して、代わりに言葉を紡いだ。


『やあ、初めまして。今日からこの本丸の審神者になった、』


そこであたしの言葉は途切れた。あたしの真横を一振りの刀が横切ったからだ。誰だよ刀投げた奴。はっ倒すぞ。
今度こそ重い溜め息が零れた。


『…随分と愉快な歓迎をされたものだねェ』

「我々に新しい審神者は必要ありません。早急にここから立ち去って頂けませんか?」

「いち兄…」


いち兄と呼ばれた水色の髪の青年が冷たい笑みを浮かべてそう言った。なんかもういろいろ面倒だなァ…。怪我してるくせに。
そこでふと、視界に入ったのは小さい虎を抱えた白髪の少年。一際怪我がひどいように見える。…そう言えばこんのすけが刀剣男子の手入れは審神者にしかできないとか何とか言ってたな。………はあ、仕方ない。
あたしは部屋の中に足を踏み入れた。その途端に増す殺気。あたしはそれを無視して歩みを進める。


『そんなに睨むなよ。その子、手当てしないとヤバいんじゃない?ねえ?』


あたしは白髪の少年の隣にいた黒髪の少年に声をかける。返事は返って来なかった。


『………この中で医療の知識がある者は?』

「ある程度なら、俺にもできるが」

『じゃあ決まりだね。アンタ、名前は?』

「薬研藤四郎だ。こっちは五虎退」

『そうか、よろしく。んじゃちょっくら失礼』

「わっ」

「おい!」


あたしは白髪の少年、五虎退とその隣の黒髪の少年、薬研藤四郎を両手に抱えた。さて、こんのすけが言っていた手入れ部屋はどこだったかな。


『心配ならアンタも付いて来るといいよ。もしあたしがこの二人に危害を加えるとアンタが判断したらその時はあたしを殺せばいい』


まあ、簡単に殺されてなんかやらないけど。
いち兄と呼ばれていた青年に向かって笑えば、薬研が変な奴だな、とあたしを見て呟いた。失礼だな。


***


『…で、残るはアンタだけなのだけど』


ようやっとほとんどの刀剣男子の手入れを終え(途中何度か本気で命の危機を感じた)、残るはこの押入れから一向に出ようとしない一人になったのだが。


『ねえ、聞いてる?あたしの声届いてる?』

「大将、まだか?」

『待って薬研。コイツが押入れから出てこない』

「ああ、加州か…」


加州清光。それがこの押入れの住人となりつつある刀剣男子の名前だ。


「加州は見た目を大層気にしているからなあ」

『いや、そこ何呑気にお茶飲んでんの!?』

「はっはっはっ、主のおかげで体が軽くなったぞ」

『うん、ちょっと黙ろうか三日月宗近。ついさっきまであたしのこと良く思ってなかったくせに』

「今も思ってないが?」

『ああ、そうかい!』


勝手にちゃぶ台を出してお茶を飲んでいるのは三日月宗近という青年。見た目や言葉遣いは温和そうだけどあたしと話すときは言葉に棘がある。別にいいけど。


「あ、あの、あるじさまもお茶飲みますか?」

「え!?主のお茶、僕用意してないよ!?」


控えめにあたしに気を遣ってくれるのは一番最初に手入れを施した五虎退。あたしのお茶を用意しなかったのは燭台切光忠という青年。
別にお茶はいいんだけど、この加州清光を押入れから出すの手伝ってくれないかな?薬研も入り口で見てるだけじゃなくてこっちまで来てくんないかな?いや、大将ならできる、じゃなくて。
あたしはこの本丸に来てから何度目かわからないため息を零した。


「主殿、溜め息を吐くと幸せが逃げるらしいぞ」

『頼むから黙ってくんない!?さっきからこれ見よがしにお茶飲んでんのめっちゃ腹立つ!』

「はっはっはっ」


三日月はあとでシバく。


『ああ、もう…いい加減にしろよ加州清光。そんなところに居られたらいつまでたっても手入れができない』

「別にいいよ。こんな汚くて不細工なところ見られたくない…」

『はあ…?』

「こんな俺、きっと誰も愛してなんかくれな『面倒くさい』…いだぁ!?」


あたしは押入れの中に手を伸ばして蹲る加州の顔を無理矢理上げさせた。後ろから乱暴な審神者だな、とかなんとか聞こえるけど知るか。こっちは我慢の限界だ。
…というか、


『拍子抜けだな…』

「はあ!?てゆーかいきなり何すんの!?」

『不細工だとかいうからどんな顔だと思ったら……なんだ、隠すのがもったいないくらい綺麗な顔してるじゃあないか』

「へ…?」

『俯いているのがもったいないっつってんの。ほら、もう出て来いって』

「ちょっ…何この審神者力強い!」

『はいはい』


あたしは加州の腕を引っ張って、押入れから引きずり出した。最初からこうすればよかったな。


『ほら、手入れ部屋行くよ。怪我してボロボロの状態のアンタを、あたしは綺麗だと思った。だから手入れ後のアンタは一層綺麗なんだろうね。早く、あたしに見せてよ』


そう言って伸ばしたあたしの手に、加州は目を瞬かせた後、おずおずと自らの手を重ねた。




カウントダウンを巻き戻す
(主!主!爪の手入れしてみたんだけどどう!?俺可愛い!?)
(……あー、うん。可愛い可愛い)
(随分懐かれたな、大将)
(うーん…複雑…)


―――――――――――――
こんな感じのブラック本丸ネタを書きたい。
刀ステを見てからとうらぶ再熱してきました。こういうブラック本丸ネタみたいなの好きなんですよね。
推しは薬研ニキと三日月さんです。清光とか大倶利伽羅さんも好きです。前にアップしたとうらぶのネタとは全く違う感じになりそうです。でも多分深刻なシリアスにはならない。なんせ銀魂世界の夢主が審神者だから。


title:たとえば僕が




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