『……なんだかご機嫌だねェ、中也』
あたしは書類を片す手を止めて明らかに機嫌のいい上司、中原中也を見やった。
「当たり前だ。なんせ半年ぶりに帰って来てみりゃあの太宰が捕まってるときた」
こんな愉快な事があるか、と笑みを浮かべる中也。 あたしからしたら、半年の間に何故そんな面倒なことになっているのだとでも言いたいが。だってあの太宰のことだ、ただの間抜けでマフィアに捕えられる訳がない。
『…で、今から太宰に会いに行ってくる、と』
「嫌がらせしになァ」
『へえ……………いってらしゃい』
「何だその間は」
『別にィ』
ニヤッと中也に笑いかければ、相変わらず腹立つ女だ、と舌打ちを零し、中也は部屋を出て行った。
『太宰に嫌がらせ、ねェ…』
中也と太宰とは長い付き合いになるけれど、いつだって太宰は中也より一枚上手だった。今回だってきっと……。
『嫌がらせされて帰って来るんだろうなァ』
あたしの呟きは誰の耳にも入らず消えていった。
***
『あ、』
「あ、」
中也が出て行って暫く、暇を持て余したあたしは先刻まで話題に上がっていた太宰治と出くわした。
「やあ、あげは。久しぶりじゃあないか」
『うわあ太宰…元気そうで何より』
「うわあって…」
半年ぶりに見た太宰は昔と変わらず自分本位なようで、ここが敵地(まあ、太宰にとっては昔いた場所でもあるのだけれど)にも拘らずニコニコと楽しそうだった。
『ところで中也がアンタの処に行ったはずだけど』
「ああ、中也なら私の欲しい情報を教えてくれた後、お嬢様口調内股歩きで出て行ったよ」
『何が如何してそうなった』
「あれは最高だったよ。あげはも来ていれば良かったのに」
『いや、アンタらの喧嘩って面倒だから巻き込まれたくないんだよ』
どうせ今回だって割と派手に暴れたのだろう。証拠に太宰は所々に怪我を負っている。 でも中也のお嬢様口調内股歩きは正直見たかった。
『…で?此処に来たのは何か目的があるんじゃないの。あたしにできる範囲でなら協力してあげようか?』
「うふふ、流石あげはだ。私の言いたい事がわかっているねぇ」
『まあこれでもアンタの親友だからさ』
聞く所によると太宰は探偵社の新人であり、人虎の少年に懸賞金を懸けた相手を調べに来たのだとか。 成程、人虎のことは確か芥川がこの通信保管所に記録を残していたな。太宰は元マフィアなだけあってすぐに扉の施錠を解除すると中に入って行った。其れにあたしも続く。
「あ、此れかな」
『意外と簡単に見つかるもんだ』
「まあ私に係れば容易いものさ」
『はいはい。分かったから疾く見よう』
「あげははつれないねぇ…。却説、七十億も支払って虎を買おうしたのは何処の誰かなー?」
太宰は愉快そうに言って資料の頁を捲っていたが、急に其れがピタリと留まる。
『……太宰?』
不思議に思って彼の持つ資料を覗き込む。
『……ああ、これはまた厄介な奴らが絡んできたねェ』
資料に載る写真を見て自然とそんな言葉が零れた。
***
太宰と別れた後、扉を開けた其の先には不機嫌を隠そうともしない中也がいた。
『その様子だと太宰といろいろあったみたいだねェ、中也』
「チッ…あの野郎、人を虚仮にしやがって…」
『二度目はなくってよ!』
「!?あげは手前ッ…何故其れを…!?」
あたしが太宰から聞いた言葉をそのままそっくり言えば、目の前の男はガタンッと大きな音を立てて立ち上がった。
『太宰から全部聞いたよ。本当傑作だよねェ、あたしにもやってみせてよ』
「…殺す!手前も太宰もまとめて殺す!」
……中也は本当揶揄いがいのある男だな。だから太宰にも嫌がらせされるんだよ。
『まあまあ落ち着きなよ中也。整った顔が台無しだよ』
「…手前が言うと莫迦にしてるようにしか聞こえねェな」
『え、酷くない?これでもあたし中也の右腕だよ!?』
「自称な」
『まあ自称だけど』
そう、あたしは中也と常に行動しているものの立場上は只の平構成員だ。別に上の地位に興味はないから其れで善いのだけれど。
「ったく……おいあげは、」
『うん?』
「今日飲み行くから付き合えよ」
『ええ…中也頗る酒弱いじゃん。酔っぱらいの面倒看るの嫌だよ、あたし…』
「五月蠅ェ、いいから来いっつってんだろ」
『……はいはい』
こうなることは何処と無く解ってたけどもね。中也とは長い付き合いだから。
『何処までも付いて行くよ、あたしの大事な上司サマ』
あたしより一寸だけ背の低い重力遣いは、大袈裟な奴だなと嗤った。
意味も理由もあなたにあげる (どうせもう、戻れないのだから)
−−−−−−−−−−−−− 前に書いた文スト小説とは違って今回はマフィア側夢主です。
以下簡単な設定↓
紅藤 あげは
能力:黒姫 自在に一振りの黒い刀が出せる。口に出して名前を唱えれば刀が出てきて服装も変わり、身体能力も上がる。 この服装は昔着ていた黒い着物。
年齢:22歳
身長:165cm
好きなもの:甘いもの、中原中也、太宰治
嫌いなもの:面倒な事、苦いもの
銀魂世界で一度死んだあと、文ストの世界に若返りトリップ。死因は銀さんを庇ったとかそう言う感じ。 トリップした後は自分に関する記憶を一切失くしていた。そんな時に仕事中の中也さんと出会い、記憶を取り戻す。行くところがないとわかった夢主は中也さんに付いて行くことにした。
中也さんは恩人にして大事な上司。太宰さんは親友。 芥川のことは嫌いじゃないのに、向こうからは嫌われている(というか気に食わないと思われている)とかだといい。
中也さんがマフィアきっての体術使いなら夢主はマフィアきっての剣術使い、みたいな。
title:たとえば僕が
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