じゃんけーんぽん。2年A組にそんな声が響く。
出された手は6本。そのうちの1本だけがパー、あとは全員チョキだった。
『うわー…まさかの一人負け』
「ハッ、ざまぁ」
『獄寺ムカつく』
一人パーを出したあげはは黒板の前に置いてあったごみ袋を手に取る。
そう、今のじゃんけんはこの教室で掃除をしていたあげは、銀時、高杉、ツナ、獄寺、山本の誰がごみを捨てに行くかを決めるためのものであった。
それに負けてしまったあげはは鼻で笑った獄寺を一睨みした後、渋々といった様子で教室を出て行った。
「あげは一人で大丈夫かな。ごみの量結構多かったけど…」
「心配性だなーツナは。アイツなら平気だって。なあ、高杉」
「ああ。アイツ、そこらの男より数倍は力あるからなァ」
「………あ、あー言われていればそうかも」
カラカラと笑う銀時と高杉。数秒の沈黙の後、ツナも納得したように顔を引きつらせながらも彼らに同意した。
「…………」
「…で、山本。言いたいことがあんならとっとと言え。さっきから人のことジロジロ見やがって」
「あ、ばれてたか」
高杉に指摘された山本はハハ、と笑って頭を掻く。
山本は銀時と高杉に何かを聞きたげな視線をやっていたのだ。それに耐えきれなくなった高杉が自分の方から山本に問うた。もちろん額に皺を寄せて不機嫌そうに。
「いやー…前に紅藤から聞いた話だとさ、向こうの世界で一緒になんでも屋?やってたのは坂田なんだろうなって思ったんだけど…」
「そういえば高杉の話は聞いたことねぇな」
「(あ、確かに…)」
山本の言葉を継いで獄寺が口を開く。そしてそのことに対してツナも二人と同じように感じていた。
そんな三人の視線を受け、銀時と高杉は顔を見合わせた。二人は一瞬目で会話をした後、銀時があー…、と言葉を濁した。
「…まあ、ガキの頃からの腐れ縁だ。俺と高杉とあげははよ」
「ついでにヅラもなァ」
「アイツはいいんだよ。ここにはいねぇんだから」
ヅラとは誰だろうとツナは思ったが、敢えて口には出さなかった。そんなあだ名を付けられる人がどんな人なのかは気になったが。
「へー…でもそうか。だから仲良いんだな!」
いつものように笑った山本に銀時はまあ、な、と曖昧な笑みで返す。
「?銀さん?」
どうかしたんですか?
銀時の表情をいち早く読み取ったツナが心配そうに銀時の顔を覗き込む。もしかしたら何か地雷を踏んでしまったのだろうか。
そんなツナの心の内を見透かしたかのように銀時はヘラリと笑って、ツナの頭をなでる。
「たいしたことじゃねーからんな顔すんなって。……ただ、アレだ、ほら………
ちょっと高杉に殺されそうになっただけだ」
「それたいしたことで済ませるんですか!?」
「そーいやそんなこともあったなァ」
「ホントお前らの関係意味わかんねーな」
懐かしむかのようにウンウンと頷く高杉。そんな彼の隣で獄寺は若干引き気味に言い放った。
彼らが話しているのは紅桜の一件のことで、直接高杉が手を下したわけではないがそれをツナたちは知る由もない。
「…うーん、結局のところ坂田と高杉は仲が良いってことなんだよな?」
「頑なだね山本!今の話聞いてた!?」
「おう!喧嘩するほど仲が良いってやつだよな!」
「でた!山本的考え方!!」
この流れではっきりと言い切る山本さすが…、とツナは苦笑を漏らした。
「(…でも、あげはも含めてあの三人はなんだか、)」
ツナはそこでふと銀時と高杉の方に視線を移した。
そして目に飛び込んできたのは、箒をバットのように構える銀時と黒板消しを振りかぶって投げようとしている高杉の姿。どうやら掃除に飽きてきたようだ。
「すでに違う方に意識が移ってる―――!?」
ええええええ、と零すツナの隣でアイツら自由すぎだろ、と獄寺が呟いた。全くその通りである。
「くらえ銀時ィ!」
「甘ェ、パフェよりも甘ェよ高杉!うおらああああああ!!」
高杉が思いっきり投げた黒板消しを銀時が箒で打ち返す。
やっぱり仲良いだろお前ら。ツナたち三人の心が一つになった瞬間だった。
***
一方その頃。ごみ捨てに行ったあげははというと……。
『…よしっ。ざっとこんなモンでしょ』
さーて戻りますか、なんて言って伸びをするあげはの背後に近付く一つの影。
嫌な予感を感じ取ったあげははバッと振り返った。
「やあ、あげは」
『う、うわあ………』
あげは、ヒマを持て余した風紀委員長とエンカウント。
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