※視点がころころ変わります





「怪盗キッドに化けたルパン三世、ね……」


銀時がテレビのニュースを見ながらポツリと呟く。頬ずえをついて見ているあたり指して興味はなさそうだ。
そう考えるあげはも銀時に倣ってテレビの画面を眺めた。


『まんまとやられちゃったねェ警察も』

「ああ、そういえば土方がぼやいていたな」


あげはの言葉に同じようにテレビを見ていた桂が頷いた。
特殊警察"真選組"の副長である土方に窃盗などは関係ないと思うが、彼も警察として思うところがあるのか。

そんなことを話していれば、ニュースの話題がパッと変わった。


「お、エミリオじゃねーか」

『へー…日本でライブか』


画面に映ったのは最近人気のイタリア人アイドル歌手、エミリオ・バレッティ。どうやら彼は日本でライブを行うらしい。
こういった類のアイドルなどに特に興味のないあげはは欠伸を零す。同時に銀時がおお、と感嘆の声を漏らしたのを聞いて少し肩を震わせた。


『……何』

「見てみろよ、あげは、ヅラ。エミリオの隣を歩く女、すげー美人じゃね?マネージャーか?」

「ヅラじゃない桂だ。………まあ、確かにな」

『ちょっと待て、何で今こっち見た。何で今チラッとこっち見た』

「何事も比べる対象があった方がわかりやすいだろう?」

『上等だコラ。二人まとめてぶっ潰す』

「俺も!?」


慌てて逃げようとする銀時の襟首をあげはは掴む。ぐえっとカエルの潰れたような声が聞こえた。
そんなものに気をかける気はない。


『…………あ、』

「あだっ!」

「?どうした、あげは?」


さっきまでの怒りはどこへ行ったのか。
あげはは銀時を掴んでいた手を不意に緩め(その際に銀時が顔から床に突っ込んだ)、テレビの画面を注視する。突発的な彼女の行動に桂は眉をひそめた。


『次元、大介』

「「!」」


あげはが小さく洩らしたその名に銀時と桂はわずかに表情を強張らせた。と言ってもおそらくは普通の人間には認識できない程度で、だ。
長年共に過ごしてきたあげはだからこそ気付いた変化。二人ともすぐに通常の顔に戻してしまったが。


「…ま、ルパンが日本にいるんならいてもおかしくはないわな」

「大方エミリオのボディガードといったところだろう」

『ああ、確か次元大介って拳銃の名手だったっけ』


辰馬とはどちらが上なのだろう、と考えてあげはは不敵に笑った。


「どのみち俺たちには関係のないことだ」

「依頼も来てねーしな」

『めんどくさそうだしね』

「ククッ…残念だったなテメェら」


あげはたちがエミリオの話題が終わってもなお、テレビを見ていると三人の背後から愉しそうな声が聞こえてきた。


『うわー…嫌な予感。晋助、それどーいう意味』


大体予想はつくけど、とあげはは付け加えた。隣では銀時がそれこそめんどくさそうに頭を掻いている。
こういう予感というのは大抵当たるものだ。
三人の反応に高杉はより一層笑みを濃くして、口を開いた。


「決まってんだろォ…いr「依頼ぜよ!」…………」


高杉の言葉を遮って前にずいっと躍り出たのは坂本だった。
アハハハと陽気に笑う坂本が高杉の蹴りによって沈められたのは言うまでもない。


***


『つまらん……』


あたしは一人サクラサクホテルのロビーに座っていた。
…何故あたしがこんな所にいるのかって?それは今回の依頼内容と関係がある。
依頼主は話題のアイドル、エミリオ。そんな有名な人物がどうして万事屋(うち)に依頼を?という疑問は辰馬の人脈の広さによって解決した。さすがだな坂本財閥。
依頼内容はライブを中止させてほしい、とのこと。何でもエミリオに対して脅迫状が届いたらしいが、銀時がそれだけじゃねー気がする…、と言ったことにより、今日はエミリオ本人に会いに来たのだ。
ただし実際会いに行ったのは銀時と、エミリオと顔見知りである辰馬の二人のみ。
五人で行っては迷惑だからと小太郎と晋助はうちで情報を集め、そしてあたしは瞬間記憶できることからロビーで待機して多くの人の顔を覚えている。実にヒマだ。眠くなってきた。

そんなわけで瞼を閉じようとしていた時、携帯の着信音が耳に入って来た。あたしは欠伸を噛み殺して通話ボタンを押した。


『何か用?晋助』


相手は晋助だった。彼は今うちにいるはずだ。何かあったのだろうか。
あたしはロビー全体から目を離さず、晋助の話に意識を集中させた。


<ルパンが米花町の銀行にある金庫に保管されていたチェリーサファイアを盗んだんだと>

『?エミリオの依頼と何か関係あんの?それ』

<さあ、どうだかな。…まあ最後まで聞けよ。その宝石だが、銀行に預けていた持ち主の名がわかった。若護茂 英心、だそうだ>

『わかごも、えいしん…』


口に出して呟く。………ああ、なんだ。そーいうこと。
あたしは思わず口角を上げた。


『面白いことになってきてるみたいだね』

<ククッ、まあな。そっちはどうだ>

『まだ何にも。すっかりヒマを持て余してるっての』

<そのうち何かあるだろ。銀時が違和感を感じたんだ。これだけってわけではあるめェよ>

『んなことわかってるよ。……じゃ、また何かあったら連絡して』

<無論そのつもりだ>


そこで晋助との会話は途切れた。
その数秒後にタイミングよくまた着信音が鳴り響いた。今度は誰だ。


<あげは、ちょっといいか>

『おお、今度は銀時か』

<は?>


今度って何だよ、と疑問を口にする銀時にさっき晋助から聞いたことをそっくりそのまま銀時に伝える。
携帯越しに、なるほどな…と聞こえたことから銀時も理解したのだろう。


『で、そっちは何の用?エミリオには会えたの?』

<ああ、それは問題ねーよ。………ただ、悪ぃけど辰馬と先に帰っててくれ>

『………銀時がそう言うなら』


言葉を濁した銀時に対して深く追求せず頷く。まあ、大方面倒事にでも遭遇したのだろう。
あたしは銀時に一言、また後で、と告げて通信を切った。そして今度は辰馬と落ち合おうと携帯のアドレス帳を開こうとして、やめた。いや、できなかったと言った方がいいのかもしれない。
目の前を通る人物にあたしは間の抜けた声を零した。


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