『ん……』


周りがバタバタと騒がしくて思わず意識がそちらに集中する。
なんだよもー…。あたしは眠いのに。

重い瞼を開けてのそのそと起き上がる。


「あ、●●●起きたアル!」

『あー…神楽?どしたの。そんな昼間っから部屋ん中走り回って…』

「何言ってるアルか!今日は皆で大江戸デパートに買い物行くって言ったの忘れたアルか!?この薄情者ォォォオオオ!!」


肩を掴まれてガタガタと前後に揺すられる。
ちょっと待って神楽。力強い首取れる。その前に寝起きの人間にこの仕打ちはひどい酔う。


「ちょ、神楽ちゃん!?●●●さんの魂出てるゥゥゥ!!もうやめてあげてェェェ!!」


あたしの意識が飛びかかってる時に救世主が現れた。


『た、助かったよメガネ…』

「だったら名前で呼んでくれませんか」


新八と神楽はまだ準備があるのか二人して部屋を出て行ってしまった。彼らと入れ替わるように入って来たのはここの主。


「よう●●●。随分とぐっすりだったな」

『あー…そうかも。てか起こすならもっと早く起こしてよ、銀時』


何故か久しぶりにその名を口にしたような気がした。
おかしいな。毎日呼んでるはずなのに…。ずっとずっと前から呼んでるはずなのに…。


「●●●?具合でも悪いのかよ。変なモンでも拾い食いしたんじゃねーの?」


馬鹿にするように笑った銀時の脛を思いっきり蹴っ飛ばした。蹲る銀時を踏みつけてあたしは自室へと向かう。
そろそろあたしも出かける準備しなくちゃ。


「●●●さーん。準備できましたか?」

「もう待ちくたびれてしまったネ!」

『おー。今行くー』


自室を出るとすでに玄関には靴を履いた銀時、新八、神楽が立っていた。
そんなに急がなくてもデパートは逃げないっての。

あたしはフッと笑って三人の方に踏み出そうとした。なのに思うように足が動かない。


「何やってるアルか、●●●?」

「早くしないと置いて行っちゃいますよ、●●●さん」


新八と神楽はもう玄関から出て姿が見えなくなっていた。
ああ、何で。動かない。動けない。どうして、どうして。


『ぎ…ぎんとき、』

「何やってんだよ●●●。ほら、行くぞ」


いつものように笑って手を差し出す銀時。ああ…届かない。届かないよ、銀時。

……ねえ、知ってる?新八も神楽も、そしてアンタも。一回もあたしの名前を呼んでいないってこと。
呼ばれてるはずなのに、聞こえないんだよ。

あたしがそう考えている間にも銀時は扉の向こうに消えていってしまった。


『…置いてかないでよバカ』


お願いだからもう一度、
―――名前を呼んで


***


ゴンッ


『痛ったァァァ!!』


頭に鈍い痛みが襲ってきて思わず顔を上げた。
え、何これ痛い。頭割れそう。てか割れてない?これ割れてない?ねえ?


「仕事中に居眠りなんていい度胸だね」

『………あ、』


そういえばあたし今、応接室で風紀の仕事をしているんだった。そんでいつの間にか寝てたのか。
あれ?これ死亡フラグたってる?


「…なるほど。君はよっぽど咬み殺されたいわけだ」

『めめめ滅相もございません!ごめんてヒバリ!』

「じゃあそこの書類持ってきて。ついでにトンファーも」

『あ、さっきあたしの頭に当たったのはやっぱりトンファーだったのね…』


ヒバリに言われた通りまとめた書類とトンファーを彼に渡す。


「随分とうなされてたみたいだけど」

『へ!?あー…いや…ちょっと昔の夢を、ね…』

「ふぅん…」


いきなりの質問にあたしはまごつく。そして正直に答えてしまったことに少し後悔。
誤魔化すべきだったかな…。でも、あの夢………。


『…ねえ、ヒバリ。ちょっとあたしの名前呼んでみてよ』

「は?」


何言ってんだコイツ、みたいな目で見られた。


『いいからいいから!一回だけ!ほらレッツセイッ!』

「うっとうしい」

『ひどい』


顔を覆って泣きまねを見せればヒバリは盛大にため息を吐いた。
ヤバい本気で泣きそうなんだけど。


「………あげは」

『!ひば「名前くらいいくらでも呼んであげるよ」

だから早く仕事しようか

『い、イエッサー…』


ヒバリはどこまでもヒバリだった。




所詮夢でしかなかった
(あげは、その書類とって)
(うへへ…りょーかい!)
(…何ニヤついてるの気持ち悪い)
(ひどい)






title:たとえば僕が



  

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