『お、重い…!』
あたしは誰に言うでもなくそう呟いた。
あたしの両手にはスーパーのレジ袋。一人暮らしをしているあたしからするとスーパーの安売りはチャンスなのだ。
いくらヒバリがお金を負担してくれているからと言って、それに甘えすぎるわけにもいかない。だからと言って風紀の仕事でバイトをする余裕もない。
そんなわけでなるべく生活費を抑えるためには安売りというものは好都合なのだ。
『でもこれは少し買い過ぎたな…』
最近はヒバリがうちで食事をすることが(何故か)多くなったうえ、ヒバリはあの華奢な体のどこに入っているのかというくらい結構な量を食べる。
だから多めに買ったのだが……。
ドンッ
『うわっと…』
考え事をしながら歩いていたせいか、誰かにぶつかってしまった。
『あー…っとすいませーん』
「チッ…気をつけやがれ」
『……って獄寺じゃん。なんだ謝って損した』
「テメッ…!」
ぶつかったのは獄寺だった。てか、謝ったのにその態度はなんだ。
『これだから最近の不良は…』
「その顔果てしなくうぜぇな紅藤」
『うるさいよ。それよりこれ持って』
あたしは片方の袋を獄寺の前に出す。彼は意味が分からないというように眉をひそめてあたしを見た。
『女の子が重たいもの持ってたら手伝ってあげるのがセオリーってもんだろ』
「残念だったな。そのセオリーはお前には通用しねぇ」
『どういう意味だコラ。いいから持てや』
あたしは無理矢理左手に持っていた袋を獄寺に押し付けた。
「重っ!お前これ持ってたのかよ!?マジで女じゃねーな!」
『失礼な。人よりちょっと力持ちなだけだ』
あたしがそれだけ言って歩き始めると、獄寺は大人しくついてくる。
文句を言いつつもなんだかんだ手伝ってくれる彼はやっぱり優しいのだろう。ケーキバイキングも付き合ってくれたし。(※5話参照)
「つーかお前一人暮らしだったんだな」
『まあね。そーいうアンタもでしょ?』
「ああ」
『中学生で一人暮らしって大変だよねー…。獄寺はご飯とかどうしてる?アンタって料理とかできんの?』
「いや…。だいたいコンビニとか」
『げ…中学生でその食生活はヤバくない?』
育ち盛りのこの時期になんて不摂生な。
そんな話をしているうちにあたしの住んでいるマンションが見えてきた。
『…あ、ここだよ。うちのマンション』
「………マジかよ」
『?どうした?』
獄寺はあたしが示したマンションを見て、呆然としたような表情を見せた。
そして一言。
「俺もここに住んでる…」
『え』
その後獄寺がお隣さんだったということまで発覚。
『「(全然知らなかった…)」』
あたしたちは自分の部屋まで来て何とも言えない表情で顔を合わせる。
一年以上ここに住んでるのに今まで隣とか気にしたことなかったよ。
『え、えーと…とりあえずさ、今日うちで食べてかない?』
「はあ!?」
『荷物持ってくれたお礼だよ』
「お前料理できんのかよ!?」
『当然でしょ?』
見えねー…、と獄寺が呟いた。
ヒバリといい、獄寺といい、なんでこうあたしを疑うのかね。
『まあ、遠慮せずに上がっていきなよ』
「ちょ、おい!」
あたしは玄関を開けた。
「おかえり、あげは」
バタンッ
『…………』
「…………おい、今、」
『あたしは何も見てない何も聞いてないおかえりだなんて聞こえなかった』
「なんで紅藤んちにヒバリがいんだよ…」
『はっきり言うなよォォ!』
ホント、なんでいるんだろうねアイツ。風紀の仕事どうした。
あたしは頭を抱えてため息を吐く。
ガチャ
「ねえ…なんで君たちが一緒にいるわけ」
『「…………」』
ヒバリがうちから出てきた。不機嫌だ。何故かものっそい不機嫌だ。
「…チッ、テメェにはかんけーねぇよ」
「………」
『ちょ、あたしのうちの前でそのケンカ腰はやめようか』
今にもダイナマイトを出しそうな獄寺と既にトンファーを構えているヒバリ。
勘弁してくれ。
あたしは獄寺の持ってくれていた袋を受け取って、ヒバリが家の中に入るよう背中を押した。
『ごめん獄寺。今日はありがと、助かった』
「あ、ああ…」
『じゃ、またね』
あたしはそれだけ言って扉を閉めた。
「…で、何で君が獄寺隼人と一緒にいたの」
『帰りにバッタリ会ったの。んで荷物持ってくれた(持たせた)んだよ』
「ふぅん……」
『?…あ、ヒバリご飯食べてくでしょ?』
「うん」
あたしは食材の入った袋を抱えて、キッチンに入った。
『(…獄寺につくったおかず分けてあげよ)』
本日の成果:隣人が同級生だったことが発覚。その隣人にちょくちょくおかずを届けるようになった。
ありきたりな言葉を頂戴(獄寺ーおかず届け来たー)
(……サンキュ)
(デレた!)
(うるせぇぇえええ!)title:たとえば僕が