忘却の彼方 | ナノ


突き刺さる言葉




二年の二学期が始まった矢先だった。その事件が起こったのは。


『風紀委員が襲撃された?』

「そう」


日曜の夜、ヒバリがうちにやって来た。そしてあたしに告げられたのは、風紀委員8名が重傷で発見されたこと。被害者にはある共通点があること。


『全員が歯を何本か抜かれてる、ねェ…』

「君はどう思う?」

『……そうだな、』


ヒバリに渡された資料を見てあたしはしばらく考える。


『…今の状況からだと風紀委員会に恨みがあるように思えるけど、なんか腑に落ちないんだよねー。それに抜かれた歯の数が何かのカウントダウンになってるみたい…。アンタなんか心当たりないの?』

「ない」

『…まあアンタの場合手当たり次第に咬み殺してるんだから恨まれても仕方ないか』

「………」


あたしはヒバリの言葉を無視してそう続けた。
ない、ってそれこそないだろ。だってヒバリに恨みを持った連中があたしのとこに来ることとか結構あるんだからね!


『問題は犯人が相当手練れってことだよねー…』


やられたのは委員の中でもかなりできる方だ。そいつらを重傷にまで追い込むなんて一般人では無理だろう。


「とりあえず今日はここに泊まるよ。それからできるだけ情報を集めて」

『あー…そんなこったろうと思ったよ』


その夜はパソコンでなるべく情報を集めた。
多分あたしの情報収集能力は人より長けているんだと思う。向こうの世界でもたまにやっていたから。
調べていて気になったのは"黒曜"というワード。黒曜と言えば隣町の地名だけど…。


『ふあ…』


自然とあくびが出た。気付いたら日付をまたごうとしている。
……そろそろ寝るか。
あたしはパソコンを閉じて布団に入った。


***


そして次の日。あたしはヒバリと一緒に学校まで来て、再び応接室で情報を集めている。
ちなみに今日から風紀委員全員で校門の前に立っているらしい。ヒバリもそっちの方に行ってしまったので今はあたし一人だ。


『うーん……やっぱり黒曜が絡んでそうだなー…』


風紀委員が襲われ始めた頃から並盛で黒曜生が頻繁に目撃されている。
そして噂によると最近黒曜中に来た転校生が日も浅いうちに黒曜中を占めてしまったとか。さすがに転校生の名前まではわからなかったけど、これは今回の件に関係してるに違いない。
…そうすると怪しいのは何年か前に潰れた黒曜ヘルシーランドかな。あそこなら誰かが何をやってもそうそう知られることはないし。この場所でも黒曜生が目撃されているから。


「何かわかったかい?あげは」

『おー…ヒバリ』


ガラリと応接室の扉が開いて、入って来たのはヒバリだった。
あたしはさっきまで見ていた黒曜の件についてヒバリに話す。


「黒曜ヘルシーランド、ね。……ああ、そうだ。さっき連絡が入ってね」

『?何かあったの?』

「笹川了平がやられたんだよ」

『っ先輩が!?』


あの笹川先輩を倒すなんてやはり相手はただ者じゃない。

ヒバリは今戻ってきたばかりだというのに、すぐに応接室を出て行こうとする。
まさか、


『ヘルシーランドに行くの…?』

「当然だよ。イタズラの首謀者は僕が咬み殺す」

『じゃああたしも「ダメだよ」……は?』

「君は来なくていい。君がいても……足手まといなだけだよ」

『っ!』


扉のしまる無機質な音がやけに響いた気がした。

"足手まとい"
今の言葉があたしを巻き込まないようにするためのヒバリの優しさだってことはわかってる。わかってるのになんで、なんでこんなにも……。


『ああ、そうか…』


あたしはただ守られるだけの存在が嫌なんだ。守られるくらいならあたしが護りたいと思ってしまうから。

もう失いたくないと思った。だから剣を持つことも背負うこともやめた。
でもそれは逆に言えば何も護れないってことだったんだね…。


『バカだなぁ…あたし』


あたしはヒバリに護ってもらいたいんじゃないよ。
―――隣に立って一緒に戦いたいんだ。






(気付いたら走り出していた)
(向かう先はもちろん、)



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