忘却の彼方 | ナノ


永劫のもとに誓う




『ねえ、ヒバリ』

「何」

『あたし―――――…』


***


一か月後。


失礼します、とドアを開ければそこに委員長の姿はなく、代わりにいたのは書類にペンを走らせている紅藤だった。


「紅藤、委員長は?」


バキィッ
紅藤の持っていたシャープペンが折れた。力入れ過ぎだろうどうした。


「紅藤…?」

『…アイツなら屋上に昼寝しに行きましたけど?』


そう言う彼女は明らかに不機嫌だ。
おそらく彼女も休憩したかったのだろう。そういえばここ最近紅藤はずっと書類とにらめっこ状態だった気がする。
仕方がないな…。


「俺も手伝おう」

『え!ホントに!?やったあ草壁さん大好きー!!』

「わかった。…わかったからそれ委員長の前では絶対言うなよ」


俺が咬み殺されるから、とは敢えて彼女には言わなかったが。
俺は彼女に向かい合うようにソファに腰かけ、机に置いてある書類を片し始めた。
委員長に見つかったら、群れるな、と咬み殺されそうだ。


「そういえばお前、正式に風紀委員に入ったらしいな」

『あー…まあ、はい』


俺は紅藤の左腕にある腕章に目をやった。彼女は俺の視線に気づいて苦笑を浮かべる。


「前はあんなに嫌がっていたのにな」

『ハハ、確かに』


あたしも、変わってきたってことですかねェ…。
その言葉の真意はわからなかったが、それ以上追及することはしなかった。…それは彼女にしては珍しい、今にも崩れそうな笑みを浮かべていたからかもしれない。


『まあ、風紀委員になったとは言え、やることはたいして変わんないんですけどね』

「そうだろうな」


逆に何で今まで風紀委員じゃなかったのかが疑問なくらい、お前馴染んでたからな。委員長にこき使われて、ほとんどの書類は紅藤が決裁していたくらいだし。

そうやって二人で話していれば、いつの間にかたくさんあった書類も数が少なくなっていた。


「紅藤、あとは俺がやっとくから委員長を起こしてきてくれないか?」

『え、嫌ですよ。絶対咬み殺される』

「大丈夫だ……少なくとも俺よりは」

『それ結局咬み殺される運命じゃないですか』

「……実はナミモリーヌのモンブランを買ってあるんだが、」

『喜んで逝ってきます!』

「漢字変換ミスってるぞ?」


とにかく行ってくれる気にはなったらしい。
彼女は早々に立ち上がると、モンブラン用意しといてくださいよー!とさっきまでとは違う嬉々とした笑顔で応接室を出て行った。


「…見回りでも行くか」


委員長が紅藤と戻ってきたら、きっと俺は邪魔になるだろうから。(決して口には出さないが委員長は相当彼女を気に入っている)


***


音をたてないようにそっと屋上へとつながるドアを開け、外へと出るあたし。
もちろん気配を消すのも忘れないよ!じゃないとヒバリに気付かれて咬み殺されちゃうからね!


『(やっぱり寝てるや…)』


あたしはそのままヒバリの隣に腰を下ろす。
起こそうかと思っていたけど、気持ちよさそうに寝ているからちょっと気が引けるんだよね。それに今無理に起こしたらトンファーが飛んでくるに決まってる。

ふ、と空を見ると黄色い小鳥が一羽飛んでいた。
六道の一件からヒバリに懐いてここまで付いてきた鳥だ。名前はヒバードらしい。誰だ名付け親。
しかも言葉しゃべるとか。(この間は並中の校歌を歌っていて正直引いた)
その子はあたしの肩にとまると、口を開こうとしたのであたしは慌てて、しーっ、と口に人差し指を当ててそれを拒んだ。
どうやら伝わったらしく、ヒバードは何も言葉を発しなかった。

…それにしてもホント、あたしが書類整理に追われてたってのに呑気に寝やがってこの暴君め!いつもいつも余裕な笑みとか浮かべちゃってさ!(しかもそれが絵になるのが更に腹立つ)
もうちょっとあたしに気を使えよ。むしろ感謝してあたしに土下座くらい…グヘッ!


『ちょ、ひば……みぞおち…』


いつの間に起きていたのか。ムスッとしたヒバリにトンファーで鳩尾を殴られた。


「さっきからうるさい」

『いだだだだだ!さらにグリグリすんのやめて!!』


どうやら全部口に出ていたようで。ヒバリさんお怒りです勘弁してくださいごめんなさい。


「せっかく人が気持ちよく寝てるってのに…」

『あたしが寝てると無理やり起こすくせによく言うよ』

「僕はいいんだよ」


相変わらず自己中で…痛い痛い痛い!頭鷲掴んだまま力いれるのやめて!
あたしが必死に謝るとヒバリはようやっと手を離してくれた。華奢なくせに一体どこにそんな力があるんだコイツ…。


『ねえ、応接室戻ろうよ。草壁さんがモンブラン買ってきてくれたって』

「やだ」

『…そう言うと思ってたけどね。じゃああたし先戻ってるわ』


あたしが立ち上がろうとするとヒバリに腕を引かれた。
え、立ち上がれないんですけど。
思わず正座したあたしの足の上にヒバリは頭を預ける。……これはアレじゃね?世に言う、


『膝枕!……ゲフッ!』

「うるさい」

『…すいませんでした』


…いや、そうじゃなくて。何よこの状況。何でこんなことに…?


「僕はもう一度寝るから。夕方になったら起こして」

『え、それまであたしはこの体勢なの…?』

「もし僕を落としたりしたら咬み殺す」


あれ、おかしいな。膝枕というなんとも甘めなシチュエーションなのに、甘さのかけらもないよ?だって命がかかってるもの!(何の罰ゲームだこれ)


「風紀委員なんだからこれくらいやりなよ」

『風紀全く関係なくね?』


そんなあたしの言葉を無視して委員長様は夢の世界へと旅立っていったのでした。


***


『ねえ、ヒバリ』

「何」

『あたし、風紀委員に入るわ』

「!…どういう風の吹き回しだい?君、あれだけ拒んでいたくせに」

『…なんとなくだよ』

「ふぅん…。まあいいけど」







(もっと貴方の傍にいたいと思ってしまった)
(理由なんて、ただそれだけ)



prev next


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -