忘却の彼方 | ナノ


陽だまりの唄




夢を見た
あの頃の、あの場所の、あの人たちの、夢を見た


「あげは、」


―――彼の人は、昔と変わらない笑みを浮かべてあたしを呼んだ



***


ふと目を開けて、真っ先に入って来たのは床だった。
あ、別に床に寝てたわけじゃないからね?椅子に座って下向いて寝てただけだから!
…それにしても、


『なんというかまた…』


随分と懐かしい夢を見た。内容は曖昧だけど、幸せな夢だったと思う。
こんな夢を見るなんて、あたしも六道に感化されたかな……。

…さて話はそれて、六道のことがあってから二日たった。
ここは病院。ヒバリはまだ目を覚まさない。医者の話によると骨が何本も折れていたみたいだし、無理もないが。


『早く起きろよコノヤロー…』


あたしはヒバリのさらさらの黒髪を手ですくって弄ぶ。
くそぅ…男にはもったいないくらいのキューティクルな髪め…!


「……何してるの」

『何って…ヒバリの髪を……ん?』


あれ、この部屋にはあたしと寝ているヒバリしかいないはず…。てことは、


『おわああああああ!!ひひひヒバリ!?』


ガタンッ!ガン!ゴンッ!


『〜〜〜〜〜〜ッ!!』


皆さん、今の音お分かりいただけただろうか?
ガタンッ→あたしの座っていた椅子の倒れた音。
ガン→その椅子にあたしが躓いた音。
ゴンッ→そのまま後ろに倒れたあたしが頭をぶつけた音。

まあ、要するに超痛いよね。床でうずくまっちゃうくらい痛いよね。

ちなみに今の様子をヒバリは表情も変えずに凝視だ。


「…………」

『…………』

「……あー…今日もいい天気だね」

『散々考えてそれかよ!いいよ無理して気ィ遣わなくても!!逆に悲しくなるだろ!?』

「じゃあ無様だね」

『それもそれで傷つくけど!』


目を覚ましたばかりだというのにヒバリは通常運転だった。
……ああ、でも。


『よかった……』

「?あげは…?」

『ヒバリが起きてくれてよかった…。あたし、また…また誰かを失っちゃうのかと…!』


床に座り込んだまま俯くあたしの腕をヒバリが引っ張った。自然と交わる目線。


『っヒバ「君、僕がそう簡単に死ぬと思ってるの?」………へ?』


ヒバリがムスッとした表情でそんなことを言うもんだから、思わず間の抜けた声が出た。ヒバリはそんなあたしに構わず続ける。


「簡単に死ぬほど僕が弱いとでも言いたいわけ?」

『え、いや…そーいうわけじゃ…』

「第一、僕は君より早く死ぬつもりはないよ。君を犠牲にしてでも生きるさ」

『えええええええ』


それは聞き捨てならないんですけど!え、何?コイツそんなこと考えてたのォォォ!?
…いやでもヒバリならやりそうだ。容易に想像できて怖い……!

ヒバリはそんな事を考えるあたしから顔を逸らした。


「…だから君が一人になるなんてありえないよ」

『!』


ヒバリはなんだかんだ優しい。そしてその優しさにいつも救われているのはあたしだ。
今だって、ほら。


『ふはっ、確かに!…それなら安心だね』


あたしが一人にならなくて済むや。


『あ!看護婦さん呼ばなきゃ。ついでに飲み物買ってくるわ』

「緑茶ね」

『わかってるって。………ねえ、ヒバリ』

「何」

『ごめん』

「は?」

『じゃ、いってくるー!』


あたしはニッと笑って部屋を出た。
そしてすぐにドアによりかかる。


『……ごめん。もう…足手まといはやめるから』


呟いた言葉は誰の耳にも届くことなく消えていった。


***


「あげはじゃねーか」

『…ん?おーリボーンじゃん。調子はどう?』

「もうバッチリだぞ。ツナたちも向こうの病室にいるから行ってやれ」

『それはよかった。じゃあ後で行くかな』


あたしはリボーンに背を向けて歩き出す。もちろん看護婦さんを呼んで、飲み物を買いに行くためだ。
そんなあたしにリボーンが背後から声をかけた。


「……あげは、お前」

『何ー?』

「お前……世界を憎んでるのか?」


その問いかけにあたしの足は自然と止まる。


『……もう何年前かすらもわからないずーっと昔の話だよ』


振り返ることなくあたしはそう答えた。






(ツナー!見舞いきてやったぞ感謝しろよコノヤロー!!)
(紅藤テメェェェ!静かにしやがれ!10代目に迷惑かけんな!!)
(いやーみんな元気になってよかったよな!)
(うん…でもとりあえずみんな静かにしてほしいかな…)



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