忘却の彼方 | ナノ


とことんついてない




「あ、あげは。アンタの種目は100m走とリレーと借り物競争だからね!」

『………え?』


6限の途中からクラスに来たあたしに一人の友人がそう告げた。
…ああ、そういえばもうすぐ体育祭だっけ。ってそうじゃなくて!


『本人の意思は無視!?ってかあたしの出る種目多くね!?』

「アンタがいなかったのが悪い」

『うっ!…それは、だってヒバリに呼ばれてたから…。あたしが悪いわけじゃ、』

「なんでもいいけどね。ドンマイ!」

『アレ、なんか前が霞んで見えないや…』


あげはは運動神経がいいから期待されてるのよ、と言われたけどあたしからしてみればうれしくないし、やりたくない。
借り物競争とか絶対皆がやりたくなかったからあたしに押し付けたんだな。変なとこで団結力のあるクラスめ!
…体育祭とかメンドくさいよ。見学がいい。これも全部ヒバリが悪いんだチクショウ。


「そういえば、メインの棒倒し。A組の総大将はあのダメツナがやるらしいわよ」

『沢田…?それはまた』


絶対何かに巻き込まれたな沢田。
あたしは沢田に同情しつつも、自分もなかなか厄介なことになったとこっそりため息を吐いた。


***


そして体育祭当日。
あたしは100m走を一位で終え、リレーは一人抜いて次の人に渡すことができたから、結果としては上々だろう。

そしていよいよ借り物競争がやってきた。
これってお題が何かわかんないのがヤダよね。"好きな人"や"誰かのヅラ"とかだったらどうしよう…。
そんなことを考えているうちにスタートの合図が鳴り響いた。あたしは合図と同時に走り出すと一番近くにあった紙を引いた。
そこに書いてあったのは…。


『…………』

「おっとここでC組紅藤!紙を見たまま動かない!一体彼女は何を引いたのか!?」


そんなアナウンスに応えるようにあたしはボソッと呟いた。


『…………学ラン』


今この場にいる全員から憐みの視線を向けられた気がした。
え、何コレ?何のフラグ?つーか誰だよ、こんなお題考えたの!
学ランといったら思いつくのはたった一つ。…そう、風紀委員だ。


『(ヒバリ、は無理だな。咬み殺されそう。…草壁さんに貸してもらおう)』


そう思って彼を捜すけど、周りには見当たらない。校門とかで見回りでもしてんのか?
その間にも他の走者は一人、二人とお題のモノを持ってあたしの横を通り抜けていく。
…あたしも大概負けず嫌いなのだろう。メンドくさかった借り物競争だけど、負けるのは何か気に食わないのだから。


『(背に腹は代えられない、か…)』


あたしは腹をくくって、ある人物のところへ駆け出した。
体育祭を一人傍観するように離れたところで見ていた人物。


『ヒバリ!』


そう、風紀委員長の雲雀恭弥。彼は体育祭にもかかわらず学ランだったから。


「………何」


駆け寄って行ったあたしにヒバリは不機嫌そうに返事をした。


『学ラン貸して!』

「やだ」

『……じゃあついてきて』

「やだ」

『…………』

「…………」

『…さっすがヒバリ!恩に着るよ!!』

「ちょ、」


あたしはヒバリの肩に乗っているだけの学ランをバッと取ると、そのままゴールの方まで一目散に駆け出した。
後ろは振り向かない。…というか振り向けない。だってあたしの背後からはとてつもない殺気と咬み殺す、なんていう物騒な単語が聞こえてきていたのだから。


『(あとで絶対咬み殺される…!)』


借り物競争は3位でゴールできたのに全然楽しくなかった。


***


その後、ヒバリに学ランを返したあたしは見事ヒバリに咬み殺された。と言っても、ヒバリはトンファーであたしの頭を軽く殴っただけ(と、本人は言うけどめちゃめちゃ痛かった)だけど。
でも絶対今日の分の書類増やされてる…!


『(今日、家に帰れっかな…)』


はあ、とため息を吐きながらグラウンドの方に目をやると、そこではもうすでに棒倒しが始まっていた。そして何故だかA組対B組C組の戦いになっていて大将は沢田とヒバリだった。
あたしがトイレに行っている間に何がどうしてそうなった。

しかも沢田またパン一だし。
そんな時、ふと観客席の方から見られているような気がして、そっちを見た。リボーンだ。


『(またアイツが原因か。…楽しそうな顔してんなーオイ)』


あたしがそんなことを考えていると、グラウンドの方が一層騒がしくなった。
どうやら決着はついたようで、ヒバリはさっさと帰って行ってしまったようだ。なんてマイペースな。


『…あたしも行くかな』


応接室に。行きたくないけど。本っ当に行きたくないけど。
容易に予想できるこれからのことにあたしは全力で逃げたくなった。





(………ああ、やっぱり。書類の整理が終わらない)



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