忘却の彼方 | ナノ


響いた声は誰のもの




今日は土曜日。
あたしはいつも通りヒバリの手伝いで書類の決裁をし、今は校内の見回りを一人でしていた。そして2-Aの前を通りかかった時、二つの人影を見つけた。


『そこの二人ー、休日は許可なく校舎に入っちゃいかんよー』

「す、すいません!…ってあげは!?」

「よっ、紅藤。何やってんだ?」

『それはこっちのセリフだよ山本。あと獄寺は一緒じゃないんだ。珍しい』

「俺たちは補習なのな」

「獄寺君は頭いいから」


笑顔で言う山本だけど、休日に補習ってこの二人相当バ…ゲフン…大変だなー。そして獄寺って頭いいんだ意外。


「…でもこの問題がさっぱりなんだよね」

「さっきから俺らで考えてんだけどな…」

『どれどれ…』


あたしは二人に問題を見せてもらう。プリントは数学だった。
…てか、ほとんど白紙じゃん。あ、この問題ならわかるわ。


『あたしが教えてあげようか?』

「ホント!?」

「助かるぜ!」


そこからあたしとツナ、山本の三人で机をくっつけて、プリントをやり始めた。


***


『…んで、ここでこの公式を使う』

「なるほどな」

『ツナ、計算ミスってる』

「あ、ホントだ」

『で、それをxに代入すると…』

「できた――!!」

「すげ――!!」

『ふう…これでプリント埋まったね』


あたしは椅子の背もたれに寄りかかる。
人に教えたこととかあんまりないからな。ちょっと疲れた。


「ありがとうあげは!本当に助かったよ!!」

『構わんよー。でもどうせなら今度おごってほしい』

「あ、じゃあさ、今日うち来ねぇ?寿司食わせてやるよ!」

『マジ?行く行く!さすが山本!!』

「ツナも来いよ。あと獄寺も誘うか!」

「そうだね!」


あたしたちはワイワイと盛り上がる。
いいな、寿司。楽しみだ。


「でもあげはって教えるの上手いんだね」

「そうだな。先生みたいだったぜ?」

「いや、先生よりわかりやすかったかも…」

『え……』


あげは、


『っ!』


ガタッと音を立てて立ち上がる。ツナと山本は肩を揺らしてあたしを見ていた。


「ど、どうしたの…?」

「なんかいたのか?」

『……いや、なんでもない』


…でも、そうか。
あたしも少しはあの人に近づけているのかな…。ずっとあの人を見てきたから。憧れていたから。大好きだったから。
だから、"先生みたい"と言われたことが、


『(ちょっとうれしいなー…なんて)』

「「――っ!」」

『?どうした二人とも』


二人はこっちを見て固まっている。何なんだ急に。


「…いやあ、なんか、ね?」

「…ああ、なんか紅藤がそう言う風に笑ってるとこ見るの初めてだなーって」

『あたし今笑ってた…?』


そう聞けば二人とも首を縦に振った。
…マジでか。無意識だった。


『てか、あたしってそんなに笑わない?』

「笑ってはいるんだけどね…」

「いつもの笑顔はどちらかといえば悪人面だよな!」

『山本君?それ笑顔で言うことじゃないから』


せっかくプリント埋めるの手伝ってやったっていうのに恩を仇で返されて気分だよ!


「まあまあ。寿司食い行こーぜ!」

「そ、そうだよ」

『…まあ、いいか。じゃあ先昇降口行ってて。ヒバリに言って来る』

「うん。じゃあ待ってるね」


あたしは二人に手を振って応接室まで走って行った。





(ヒバリィィ!!ちょっくら寿司食いに行って来る!!)
(うるさい)
(グフッ!)



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