忘却の彼方 | ナノ


極限的会話




今、応接室にはあたし一人のみ。ヒバリは委員会に出ているからいない。
つまりこの時間はあたしの休息タイム。まさにフリーダム。
あたしは眺めていた書類を机に置いて、ソファにもたれかかった。
あー…このまま寝ちゃおうかな……。


「ヒバリはいるか!!」

『………』


…グッバイあたしの休息。
バアンッと派手に音を立てて部屋に入って来たのは3年の笹川先輩。よりによってなんでこううるさい奴が…。


「む、お前は確か紅藤…だったか?ヒバリはどこだ?」

『ヒバリならまだ戻って来てないですよ。アイツになんか用ですか?』

「うむ。実はな…委員会でヒバリの奴が寝ていたのでな。注意したのだが、アイツはろくに俺の話を聞かず出て行ってしまったのだ」

『相変わらず怖いもの知らずですね先輩』

「だからこうしてここまで来て極限に説教をしようと…『帰れ』…何故だ!?」


アンタとヒバリが関わるとろくなことになんないからだよ!とは言わなかったが、事実笹川先輩がヒバリに絡むと機嫌の悪くなったヒバリがあたしに八つ当たりしてくるんだよね。ホント勘弁してほしい。


『とにかく!アイツはまだ帰って来てないので今日は帰ってくださいよ』

「まあ、いないのなら仕方がないな。……む、そういえば」


帰ろうと踵を返した先輩は何かを思い出したようにこちらを振り返った。
まだなんかあるのか。


「最近京子と仲がいいらしいな」

『え?まあ…』


確かに最近はハルも含め3人でケーキを食べに行ったりしている。
それが一体なんだというのか。


「アイツがうれしそうにお前のことを話していたのでな。これからも京子を頼んだぞ、紅藤」

『言われなくても』


あたしはヘラリと笑ってそう返しておいた。
先輩はよほど妹のことが大事らしい。京子の名前を口にした雰囲気がさっきまでとは異なり、優しさを帯びていた気がしたから。

…あ、そうだ。一つ先輩に言わなきゃいけないことがあったんだった。


『先輩、』

「なんだ?」

『アンタこの間ボクシング部の部室の壁にヒビ入れましたね?』

「な、なんでそれを…!」

『壁壊すのなんてアンタくらいしかいないだろーが』

「いや、あの時は極限に張り切っていたのだ。なんせボクシング部に欲しい逸材を見つけたのでな!俺も負けていられないと思ったのだ!!」

『とりあえず修理費の半分は部費から引いておきますから』

「んなっ……!」


先輩は不満をぶつけてきたが、むしろ感謝してほしいくらいだわ。ヒバリがボクシング部を咬み殺そうとするのを必死に宥め、その上半分の修理費はこっちで出すんだから。


「極限に納得いかん!」

『極限に納得しろや。全額部費から差し引かれるよりマシでしょうが』


そう言ったら渋々とであるが先輩は納得したようだ。


『…んじゃ、京子によろしく言っといてくださいね』

「おう!また来るぞ!」

『それは全力で遠慮いただきたいな!』


そして先輩が出て行った後、あたしはやっと一息つける、と伸びをする。
あー…疲れた。ホント寝ちゃいそうだ。

ガラッ


『…………』

「ねえ、なんで笹川了平がここから出てくるわけ?」


先輩と入れ替わりに入って来たのは不機嫌さを隠そうともしないヒバリだった。

結局あたしに休息はないらしい。





(ストライキおこしたい)
(バカなこと言ってないで手を動かしなよ)



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