忘却の彼方 | ナノ


馬鹿だね、と嗤う




「お前がヒバリの女だな?」

『全くもって違いますが何か』


ヒバリの手伝いを始めて一年。ちょいちょいこんな風にヒバリに恨みを持った不良などに絡まれることがあった。
そして決まって言われるのがこの一言。どうやら皆さんあたしをヒバリの彼女と勘違いしているようで。
言っとくけど彼女でもなんでもないからね?あのヒバリだよ?群れることが嫌いな最恐の風紀委員長様だよ?ないないないない。
前にこのことを本人に伝えたら鼻で笑われた。それはそれで納得いかない。

…とにかく、彼女ではないにしろあたしはヒバリの弱点と見なされていることは確実だった。
まあ、あたしがそこらへんの不良なんぞに簡単にやられるわけがないのだけれど。


「お前が常にヒバリといることはわかってんだよ」


そう言って下卑た笑みを浮かべる不良たち。その数ざっと見る限り二十人弱ってとこか…。
いつもなら隙をついて逃げたりしているんだけれど、今回は完璧に囲まれてしまった。


『(面倒くさいなあ…)』


こんなことなら常に木刀を持っているべきだったかもしれない、と近づいて来る男たちをぼんやりと見ながら考える。そしてため息を一つ。


『仕方ない、か…』

「復活!!死ぬ気であげはを助ける!!」

『………は、』


男たちを飛び越えてあたしの前に躍り出たのは死ぬ気モードのツナだった。
圧倒的な強さで次々と男たちを倒していく。


「加勢しますよ10代目!!」

「助っ人とーじょー!!」


そしてツナの背中を護るように立つ獄寺と山本。
コイツらいつのまに現れたんだ…。
さながらヒーローのように現れた3人はあっという間に不良たちを伸してしまった。


「あげは!大丈夫だった?」

『うん、平気。助かったよ3人とも』

「フン、10代目の手を煩わせやがって」

「まあまあ。いいじゃねーか。紅藤が無事だったんだしな!」

「それで、この人たちなんであげはを…?」

『ん?…ああ、』


あたしは気絶している男たちを一瞥をくれる。


『…あの辺に倒れてるのは1カ月前にヒバリに咬み殺された奴ら』

「え、」

『んであの辺が2週間前に咬み殺された奴ら。あっちが3日前に咬み殺された奴ら。それで…「ゴメン、もういいや…」……そう?』

「…なんつーか、見事に巻き添えくらってんなお前」

「紅藤も大変なのな」

『わかってくれるかい?少年たちよ…』


ツナたちはあたしに同情と憐みを含んだ目を向けてくる。
どうしよう、涙出てきそう。


「紅藤は何でヒバリの手伝いやってんだ?」

「あ、そういえば…。風紀委員ではないよね?」

『うん。ヒバリの手伝いをしてるのはねー…えーと……な、成り行き』

「お前説明すんの面倒くさいだけだろ」

『よくわかったね獄寺』

「そのドヤ顔ものすごく果たしてェ」


ヒバリの傍はなんだかんだ居心地が良い。だから、風紀の仕事が面倒くさくても、こうして目をつけられることがあっても、あたしはここまで過ごしてきた。


『(今じゃアイツの隣にいることが当たり前になって来てるよなー…)』

「あげは…?」

『…いや、まあ、なんだ。いろいろあるけどヒバリの傍も悪くないよ』

「そっか」

『それにアイツの手伝いするとお菓子もらえるんだよね。あげは超感激』

「本音出た!?」

「ハハッ!紅藤らしいな!!」


しばらくしてツナたちは行ってしまった。なんでもツナんちで宿題をやるとか。


『さて、』


あたしは3人の後ろ姿が見えなくなると、倒れている不良たちの方に目をやった。ツナたちのやり方が甘かったのか、それともただ単にコイツらが頑丈なのか、何人かが意識を取り戻していた。


「クソッ…あのガキ共…!」

『まあまあ。落ち着きなよお兄さんたち』

「あ?」

『…まだ起き上がるのは早いんじゃない?』

「ガッ!」


あたしは起き上がろうとしていた一人を蹴り飛ばす。続いて他の数人も足技だけで沈めておいた。


『ヒバリが来るまで大人しくしてなよ?』


あたしは意識がない男たちに向かって嗤いかけた。





(あ、もしもし?あたしだけど。今不良たちに囲まれてた)
(……すぐ行くから待ってて)
(うん。あ、でもツナたちが倒してくれたから)
(あの草食動物たちが、ね…)



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