忘却の彼方 | ナノ


独特な表現




「ねえ、あげは、」

『…何』


ただ今冬休み。それにもかかわらずあたしは制服を着て学校に来ていた。
理由はもちろん、ヒバリに呼び出されたから。長期休暇の最中も風紀の仕事はあるらしい。だって夏休みもそれでほとんど潰されたからね!

そんなあたしを呼び出した張本人は書類とにらめっこをしているあたしに話しかけてきた。
あたしは書類から目を離さず、ヒバリの言葉に耳を傾ける。


「寿司食べたくないかい?」

『いや、全然。むしろ甘い物が欲しい』

「寿司食べたそうな顔してるよね、君」

『寿司食べたそうな顔ってどんな顔!?…え、強制?これ強制なの!?』

「ちょっと買ってきなよ」


そう言って財布を投げられる。ヒバリの中で今日の昼は寿司に決定らしい。
まあ、あたしもお昼持ってないからいいんだけどさ。どうせヒバリの金だし。


「かんぱちとヒラメのえんがわ忘れないでね」

『へいへい…』


そうしてこの寒い中、あたしは一人寿司を買いに行くことになった。


***


やってきたのは「竹寿司」という店。ここの寿司はおいしいと聞いたことがあるからだ。
ヒバリは味にうるさいけど、まあここなら大丈夫だ多分。


「いらっしゃい!」

『ども…』


店の中に入ると元気な声が聞こえてきた。きっとここの板前さんだろう。


『(なんか、誰かに似てるような…)』

「ん?お嬢ちゃん並中生かい?」

『へ、まあ。そうですけど』

「そうかそうか。俺の息子も並中行ってんだよ!…あ、ご注文は?」

『あー…と、寿司二人前と…かんぱちとヒラメのえんがわ別に作ってよ』

「りょうかい!ちょっと待っててな!」


そう言って笑った親父さんはますます誰かと似てる気がする。……誰だっけ?


「武ー!ちょっと手伝ってくれ!」


親父さんが武という人を呼んだ。………武?


「呼んだか親父?…って紅藤じゃねえか!」

『誰かに似てると思ったら山本か!』

「ん?友達か?」

「まあな!あれ、そういえば紅藤、冬休みなのに制服なんだな」

『まあね。ヒバリの手伝い。ついでに今はヒバリのお使い』

「へー…お前らホント仲いいよな!」


そう言って笑う山本。果たしてあたしたちの関係を仲がいいと言っていいのかどうか…。
あたしたちは寿司が出来上がる間、カウンターに座って話す。


『山本って野球部だったよね。前、試合でホームラン何本も打ってるの見たよ。すごいねーあれ』

「そうか?」

『え、自覚なし?…どうやったらあんなにホームラン出せるの?』

「んー…そうだな。まずはこうバッドをグッグッと構えて、グワバッて腰落として…ボールが来たらズバッとバッドを振ったら、ビギャンのボンでホームランだな!」

『………え?』


ゴメン山本。あたしそんな擬音語聞いたことないわ。グッグッ、グワバッ、ズバッ、は百歩譲ってよしとしよう。
…なんだよビギャンのボンでホームランて!爆発?爆発してんの!?


「どうかしたのか紅藤?」

『いや、なんでもない…』

「お嬢ちゃん、寿司できたぜ」


ちょうど野球の話が終わったころ、親父さんが寿司を作り終わった。
あたしはそれを受け取って、代金を払う。


「まいど!」

『こちらこそありがとうございました。山本も、じゃあね』

「おう!」


あたしは山本に手を振って店を出た。





(…ねえ、ヒバリ)
(何だい?)
(ビギャンのボンが頭から離れない)
(は?)



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