忘却の彼方 | ナノ


笑って隠した本音




今日はケーキバイキングが半額になると聞いて、さっそくその店にやって来たあたし。
しかし、入り口の前に建てられている看板に書かれている言葉を見て思わず立ち止まる。


『か、カップル限定だと……!?』


なんでリア充限定なわけ!?嫌がらせか!?あたしに対する嫌がらせかコノヤロウ!!

そんなわけで一人じゃ入れないと知ったあたしはどうするか悩んだ末、ヒバリに電話をかけた。
が、あっさり断られた。予想はついてたけどね。最後まで言い切る前にヤダ、と言って電話を切られたよチクショウ。


『ツナは番号知らないしなー…。そもそも携帯を持っているのかどうか…。………ん?』


ふと、目に入った銀髪。
ソイツを見た瞬間あたしは思わず口角を上げた。


『ちょうどいい奴はっけーん』


***


『ごーくでーらくーん』

「!?……なっ、何だよ!?気持ち悪ィ!!」

『まあまあいいからいいから。ちょっとあたしに付き合えや』

「は!?何言って……って引きずるんじゃねェェ!!果たすぞ紅藤テメェエエエ!!」


そう、見つけたのは最近関わるようになった獄寺。あたしは背後から彼の腕をつかむと暴れる奴をそのまま引きずって、さっきの店へと入った。


『いやあ…助かったよ獄寺。これで心置きなく半額でケーキ食べ放題だよ』

「太るぞ」

『うるさい。アンタはコーヒーだけでいいの?』

「俺は甘いモンはあんま好きじゃねンだよ」

『え、そうなの?もったいない』


取って来たケーキを頬張るあたしと、不機嫌そうにコーヒーを飲む獄寺。きっと雰囲気からしたらとてもじゃないけど、カップルには見えないだろう。
あたしは機嫌の直らない獄寺を見つめる。


『……獄寺ってさー、』

「あ?」

『ハーフかなんか?』

「…イタリアと日本のクォーターだよ」

『あー…通りで』

「何なんだよテメェは」

『んー…?いや……ただきれいな銀髪だなと思ったから』

「…………は?」


獄寺はそう声を漏らした後、固まって動かなくなった。
うわあ、アホ面。


『…フッ、アハハ!アンタ何て顔してんの?』

「〜〜っ!うるせー!!」

『真っ赤な顔で言われても、ねえ?』

「ぜってー果たす!!」

『ちょ、ダイナマイトは勘弁!』


真っ赤になってダイナマイトを取り出す獄寺を慌てて止める。
ダイナマイトはシャレになんないっての!


『別にいいじゃん。貶したわけじゃないんだから』

「………」

『あたしは好きだよ、アンタの銀髪』

「…ケッ、そーかよ」


そっぽを向いてしまった獄寺。
…コイツはアレだな。ツンデレ。ツンデレ不良少年だ。


「何笑ってんだよ」

『別にー?』

「………お前、」

『ん?』

「いや、なんでもねェ…」

『なんじゃそりゃ』


あたしは言葉を濁した獄寺に少し笑って、立ち上がる。
本当はもう少し食べたいけれど、これ以上付き合わせたらさすがに獄寺には申し訳ないし。


『今日は付き合ってくれてありがと。…ってことで、今日はあたしがおごるよ』

「ったりめーだ。俺はコーヒーしか飲んでねェしな」

『絶対損してるねアンタ』

「うるせー」


お金を払って店を出る。獄寺はあたしが行く方向とは反対側に歩いて行った。


『じゃあねー獄寺』

「…………」

『え、無視?』

「…じゃあな、紅藤」

『(…やっぱツンデレ)』


獄寺は小さい声でそう呟くとすたすたと歩いて行ってしまった。
…揺れる銀髪が"アイツ"と重なって見えたのはきっと気のせいだ。


『末期だなーあたしも。…さて、帰るか』





(俺の髪をきれいだと言ったアイツは)
(泣きそうな顔で笑ってた)



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