「祭り行くぞ」
『「は?」』
ある日の夕暮れ時。いつもより少しだけ楽しそうな表情をした晋助が部屋に入って来た。
『イヤイヤイヤ、意味わからん』
「祭りだァ?あちぃからヤダ」
「てめーらの意見は聞いてねンだよ」
そう言って三人分の浴衣を取り出す晋助。
いったいどこからこんな浴衣取ってきたの。そしてあたしらに拒否権はないんか。
「お前ひとりで行けばいいだろうが。銀さんは忙しいんだよ」
「いいじゃねーか皆で行けば」
「いや、だから面倒くせ………アレ、」
銀時はてっきり晋助と会話していると思っていたのだろう。しかしそれは違う。晋助の「てめーらの……」の辺りからリボーンが部屋に入って来ていたのだ。
「ツナや獄寺、山本。京子たちも誘ったらどうだ?」
『そうだね。京子やハルの浴衣姿超見たい』
「お前本能に忠実だな!」
そんなわけで皆でお祭りです。
***
『京子ーはるー』
「あげはちゃん!」
「はひーあげはちゃんベリーキュートです!」
『いやだな。二人の方がかわいいよ』
「そうだな」
「お前の場合馬子にも衣装だもんな」
『そこの二人ぶっ殺すぞコラ』
祭りの会場の入り口。そこで待ち合わせてたあたしたちは全員揃ったところで屋台がたくさん並ぶ中を歩き始める。
『あれ、どうしたツナ?なんか浮かない顔してるけど…』
「いや、うん……。この前の祭りみたいにならなきゃいいなって思って…」
『この前?』
あたしが聞くと、ツナはあたしたちが来る前にもみんなでお祭りに来たことがあるのだと教えてくれた。
どうやらそこでいろいろあったらしい。ツナだけでなく獄寺や山本でさえも苦笑を浮かべていた。
『まあよくわからんけど、今日は今日だし。きっと楽しいよ』
「そ、そうだよね!」
『そうそう。それに京子の浴衣姿見れたんだからラッキーじゃん』
「な、何言ってんのあげは!?」
にやにやと笑いながらツナに近づけば案の定ツナは顔を赤くしてうろたえる。あたしはそれが面白くて調子に乗っていると頭に衝撃をくらった。
あたしの頭を叩いたのは獄寺だ。
『痛い!何すんだ獄寺!!』
「てめーこそ10代目に何してんだ!!」
『ちょっとからかってただけじゃんさ!バカ寺!!』
「うるせー馬子にも衣装!」
『あだ名みたいに言うのやめてくんない!?』
あたしと獄寺がいつものように騒ぎ出す。それを見て戸惑っているのはツナで、それをいつも止めるのは、
「まあまあ二人とも落ち着けよ」
そう、天然ボーイ山本だ。
山本はあたしたちの間に入るといつもの笑顔であたしと獄寺を宥めた。それに落ち着いて改めて山本に声をかける。
『山本ー、獄寺ひどいんだよ。馬子にも衣装とかさー…』
銀時にも言われたし。
自分ではそこそこ似合うかなと思ってたけど自信失くすわ、さすがに。
「ん?でも俺は紅藤も可愛いと思うぜ?」
『…………』
きっと今のあたしの顔はなんとも間抜け顔だろう。そりゃそうだ。可愛いとか素面で言えちゃう天然ボーイはあたしのいた世界にはいないんだから。
「紅藤?」
『おわああああ//』
「どうした?顔赤いけど風邪か?」
『もうやだこの天然!!』
恥ずかしい恥ずかしい。耐えられなくなったあたしは思わず叫んでしまった。
そのまま走って逃げようとしたら、背中のあたりに体重をかけられる。
『………銀時、重い』
「林檎飴買おーぜ、あげは」
『買うけど重い』
「あっちにあったから行くぞ」
『いいけど何。さっきからあたしの話聞かないねあんた』
よくわからない銀時はそのままあたしの背中から退くと、あたしの手を取り人ごみをかき分けるように進みだした。
後ろからさっきのあたしのように、にやけ顔の晋助がついてくる。
「あげはちゃんたち行っちゃったね」
「はひ、私もツナさんとあんな感じになりたいですー!」
「………」
「(獄寺君なんか不機嫌?)…というか山本はすごいね……」
「ん?何がだ?」
あたしたちがいなくなった後、こんな会話がされていたとか。
***
『あーチョコバナナうま』
「よくもそんなに甘いモンが食えるな」
『甘味は世界を救うんだよ。ね、銀時?』
「そうだよ、高杉。世の中なんでも甘くなきゃやっていけねーだろ」
「黙れ甘党共」
銀時が人ごみの中を無理やり突破したせいでツナたちとはぐれたあたしたち銀魂組。だがそんなことは気にせず、あたしたちは自分たちのやりたいようにやっていた。
まずは林檎飴、次にわたがし、そして今チョコバナナ。何故か不機嫌だった銀時も、甘いものを食べるごとに機嫌は直っていったようだ。
次は何を食べようか。そんなことを銀時と話している時、
ガシャーンッ
あたしたちから少し離れた場所。突然何かが壊れるような物音がした。
→
back