反省は態度で示せ


―原田side―


『……あ、左之さんだ』

「…………何やってんだあげは」


ある日の昼下がり、縁側を歩いていた俺は庭の方を眺めて正座しているあげはに出くわした。彼女の手には"反省中"と書かれた紙が持たされていた。
………どういう状況だこれ。


「お前はどうしたらこんな状況になるんだよ…」

『あー…実は――――』


あげはの説明によると事の発端は約二時間前だ。
最近うちにやって来た銀さんと高杉さんが喧嘩を始め、それを止めようとした桂さんを巻き込み、さらにそれを傍観していたあげはを巻き込んだ。四人とも容赦なく相手を倒そうとするため部屋が半壊。その騒ぎを聞きつけた土方さんが一喝し喧嘩は終了。
そして反省として四人はこの場所で正座させられていたらしいが一時間が経過した頃、銀さんがある提案を出した。


『誰か一人が残っていてあと三人はどっか逃走する…みたいな?』

「いや、みたいなって…」

『ちなみに30分交代であたしが今三番目』


一番手は小太郎で二番手が銀時だったよ。
淡々と表情も変えずにそう言うあげは。お前らのその発想はいったいどこから来てんだよ。そろそろ土方さんの胃に穴が開くぞ勘弁してくれ。


「…で、ほかの三人はいまどこに?」

『えーと…確か町を散策してくるって』

「屯所から出てったのかアイツら!?」


俺は思わず頭を抱えた。それも仕方のないことだ。だってあげはたち…特に銀さんが来てからというもの、四人は何かしら騒ぎを起こしては屯所を壊している。
確かこの前は新八の部屋が爆破されてたな。何でそうなった。
そんな三人が揃って街に出たとなるとどこかしらで被害が出るんじゃないだろうか。


『でも左之さんが来てくれてよかったー。あたしこの30分間ヒマするとこだったよ』

「そうか……。俺はこの数分間でどっと疲れたけどな」

『…まあ、左之さんの気持ちもわからんではないけど』

「てかお前だってついこの間俺たちに怒られたばっかだろ」

『うっ……』


あげははビクリと肩を揺らし俺から目を逸らした。
この間というのは銀さんが来た日のことだ。勝手に行動して皆に心配をかけたあげはは土方さんだけでなく、総司や千鶴にまで叱られてたな。


「…前にも言ったけどあまり心配させないでくれよあげは」

『……はーい』


そっぽを向いて返事をするあげは。なんだか拗ねた子供みたいで俺は思わず笑みをこぼした。


『……何笑ってんの』

「いや、悪い。なんかつい、な」

『次から背後に注意することだね左之さん』

「ちょ、目ェ据わってる!!」


あ、これ本気のやつだわ。そう感じた俺はとりあえず謝っておいた。


「そ、そういえば銀さんってあげはがずっと会いたがってた奴だよな?」


自分でもこの話題の転換は無理矢理だと思ったが、あげはは銀さんの名前を聞いた途端少しだけ表情を変えた。


『…そういえばアンタにはそんな話したね』


そう言ったあげはは苦笑を浮かべていたが、その笑みにはどこかうれしさも含んでいるかのように見えた。


「会えてよかったな」

『……そうやってさりげなく頭撫でてくるあたりイケメンだよね、左之さんって』


照れるわー…なんて言っているけどその表情はたいしていつもと変わらないように見える。こういうところは本当千鶴と真逆だよな。


「左之にあげは?」


あげはと話していると斎藤がやって来た。斎藤は俺たちの方までやってくると、あげはが手に持っている物に視線を移した。


「……また何かやらかしたのかあげは」

『まあ、ちょっと…』

「あまり副長に迷惑をかけるな」

『うん。土方さんはどうでもいいけどゴメンね一君』

「いや土方さんにも謝ってやれよ」


どうでもいいってお前…。


『それで一君は何してたの?』

「む……ああ、そうだ。副長に報告したいことがあってな」

「何かあったのか?」


攘夷浪士たちが不審な動きでも見せているのか?
あげはも俺と同じことを考えたのか、どこか真剣さを帯びたような目で斎藤を見ていた。


「実は町の方で銀髪の男と隻眼の男が暴れているという情報が耳に入ったのでな。一応副長に知らせておこうかと」

『「………」』


あ、アイツらだァァァ!!確実に今屯所を抜け出してるあの三人じゃねェか!!やっぱり喧嘩してたのかよ懲りねェなアイツら!!


『あ、あー…一君?土方さんは忙しいだろうしその報告は後でもいいんじゃないかな?』

「しかし…」

「さ、斎藤も疲れてんじゃねェか?俺らと一緒に一休みしようぜ!な?」


俺とあげはで斎藤の腕を引っ張って間に座らせる。無理矢理俺らの間に座らされた斎藤は怪訝そうな表情を浮かべていた。


「俺は別に疲れてなど…」

『イヤイヤイヤでも土方さんが疲れてるかもしんないじゃん!今はそっとしといてあげよう!?』

「誰のせいで疲れてると思ってんだよ」

『え?だから………え゛』

「あ、副長」

「げ、土方さん」

「……俺はお前ら四人に正座してろと言ったはずなんだがなァ」


口元をひくつかせて土方さんはあげはを睨む。


「あの三人はどこ行きやがった……?」

『いやあ…えっと…どこ行ったんだろーね、左之さん』

「頼むから俺に振らないでくれ!」

「副長、町で銀髪の男と隻眼の男が暴れているという情報が」

『一君んんんんん!?』


斎藤はこの場の雰囲気を感じ取ることができなかったらしい。…終わったな、銀さんたち。
俺は斎藤を連れて屯所を出て行った土方さんの背を見送りながら、あの三人を想って合掌しておいた。(ちなみにあげはは制裁として土方さんに拳骨を食らって悶絶中だ)

土方さんが銀さんと高杉さんを、斎藤が桂さんを引きずって帰って来るのはこの一時間後のことだった。




(本気で土方さんの胃が心配な今日この頃)


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