辰「百物語するぜよ!」


部屋に入ったあたしたちを待ち構え、そんなことを言い出したのは、言わずもがなお気楽なもじゃもじゃ馬鹿。

あまりに突飛な発言にあたしだけでなく、茉銀、小太郎、晋助までもがポカンとしてしまう。


辰馬の手にはどこから用意したのか、炎の灯った蝋燭が。
戦争中だというのに、常にこの無駄に高いテンションを保っているコイツには呆れを通り越してむしろ感心してしまう。まぁある意味救われるけれども



いや、つーかコイツ今なんつった?
百物語?
あの怪談を一話語り終えるごとに蝋燭消していくヤツ?



桂「坂本、今は戦時中だぞ?」


あ「えー、でも楽しそうじゃない?ねぇ晋助?」


高「悪くねェな。どーせ夜は寝るだけで暇だしなァ」


桂「うむ、そうか……。しかし百も話す時間も余裕もないぞ?」


辰「じゃあ、一人一話で五物語にするぜよ」


あ「キリ悪いな」



なんだかんだ言いつつみんなノリ気らしい。


いつまでも部屋の戸口に突っ立っていてもしょうがないということで、そのまま部屋の中心まで入って腰を下ろす。……一人を除いて。


いまだに入口に突っ立ったままなのは、今まで一言も声を発することのなかった茉銀。心無しか、その表情はどこか青冷めているような…。



あ「……茉銀、『イヤだ』…まだ何も言ってないんだけど!?」


桂「どうした茉銀、入らんのか?」


高「時間ねーんだ。早く来い」


辰「もう始めるき!」


『何コレなんのイジメ!?』


そーいや、茉銀ってこーゆーのはダメだったね。

イヤだイヤだと駄々をこねる茉銀を無視した晋助が彼女を無理矢理引っ張りこんで自身の隣(もっと言えばあたしと晋助の間)に座らせる。



『マジで何考えてんのアンタら!?つーか時期間違えてるでしょ!今、冬!It's winter!これ以上涼む必要ないし!』


あ「あれ?ひょっとして茉銀怖いの〜?」


『狽ネ、なな何言ってんのかなあげはちゃん!?別に怖くないし!』



ドモリながら言っても説得力ないよ。

あたしの袖を握っている茉銀の手は明らかに震えている。



『つーかあげははともかく、隣に高杉とか恐怖が二割増しするだけ「あ"ァ?」ナンデモアリマセン』


すぐさま鋭い視線を浴びせる晋助。それを受けてバッと顔をそらせて、縮こまる茉銀。

というか、この二人のやりとりは見ててホントに飽きないよな。晋助もそんなんだから茉銀に勘違いされるんだよ。



あ「んじゃ、最初は誰からいく?」


桂「よし、では俺が先陣を切ろう」



マジでか。
序盤は否定的だったくせに、なんだかんだでコイツもノリノリらしい。



高「さっさとしろよヅラァ」


桂「ヅラじゃない桂だ。うむ、とっておきを披露してやろう」


『やめてくれ……』


あ「よし、とびっきり怖いヤツ頼むね!」


辰「始めるぜよ〜」



約一名のか細い懇願は全員聞こえないフリをして、百物語改め五物語は始まった。




ーーーーーー

ーーーー

ーー




あ「ーー……かくして、その後少年の姿を見た者はだれもいませんでした。めでたしめでたし。……どう茉銀?怖かった?」


あたしが話終わったところで、約一名を除く(※誰かは察してください)全員の怪談話は終了した。
というか、ぶっちゃけあたしら四人は怪談とかは平気だから、途中からもう茉銀怖がらせ大会みたいになってたけど。



『……なに昔話みたいな締め方してんのよ、なんにもめでたくないわよ……。少年救われてないし……!明るい口調で語るような話じゃなかったし……!』


口ではなんとなく強気な口調だが、実際の彼女は半泣きで小刻みに震えている。産まれたての子鹿ってよく表すけど、案外的を射た例えだと思う。



高「相変わらずビビりだな、お前」



『そのビビりに一番エグい話聞かせてたのはどこのどいつだよォォォオオ!!?』




うん、アレは面白ゲフンゲフン……可哀想だった。

話自体はあたし達も聞いたことがあるものだったんだけど、晋助はそれを表現を細かく、本当に細かく丁寧に、一つ一つあたし達(というか、一番良い反応を見せる茉銀)に語っていった。丁寧に丁寧に、細かく細かく細かく……。

『ムリムリムリ!怖い怖い!というか高杉が怖い!ヤメテヤメテヤダヤダごめんなさいィィイ!!!』

という茉銀の魂の叫びにも似た悲鳴を聞いても尚、淡々と話していった晋助は、マジでイイ表情をしていた。

取り敢えず、明日以降茉銀が夜一人でトイレに行けないのは決定事項だろう。



『つーか、もう寝ようよ。もう精神的に疲れたよシロさん……』



桂「?まだ終わってないぞ?」



辰「まだ茉銀が喋ってないきに!」



高「ここで喋っとかねェと、今回ホントに良いトコ無しで追わんぞ」



あ「三人とも、茉銀なりになんか考えがあるんだよ。あまり深く聞かないであげてよ」



『意味なんてないわよ!怖いだけですごめんなさい!』



もう絶対開き直ってるよね茉銀。まぁあんだけ悲鳴上げてたしね。

それはともかく寝たいのは皆同じみたいだ。あたしだって眠い。明日早いし。

そのまま自室に戻るのもアレだから、今日はこの場で布団を五つ敷いて、皆で寝ようということになった。



桂「よし、では寝るか」



高「オイヅラ、狭ェ。もっと向こうにズレろ」



桂「ズレてない桂だ」



『あげはー、隣オーケー?』



あ「オーケーオーケー。おいでおいで〜」



辰「じゃあ明日も皆頑張るぜよ!おやすみグガァァア〜〜」



『「「「早ッッ!!?」」」』



思わずツッコミがハモったのは言うまでも無い。寝付き良すぎだよ辰馬。



そんなことを思ったあたしだけど、案外人のことは言えないらしい。小太郎や晋助も、辰馬の後を追うようにしてすぐに寝付いたようだ。
もちろん、あたしも例外ではなく。薄れていく意識の中最後に見たのは、布団から上半身だけを起こしてあたしの髪を撫でる茉銀。




『    』



なんて言ったのかは分からなかったけれど、その時の彼女は、酷く穏やかな表情をしていたんだ。




そのひとときを永遠に

((おやすみ))
((また明日も、五人でーー))



焔羅さまが描いてくださった素敵絵→



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