キャパシティ0


少年が目を覚ました。だから座っていた椅子から立ち上がり、彼の顔を覗き込んだ。


「…………」

『おはよー、少年。気分はどう?』

「…………」


あたしの対応は正しかったはずだ。
なのに、なんで。なんで刀を突きつけられてんですかねあたしは。


『えーっとぉ……ゴメン状況が全然頭に入って来ない』

「誰だテメェ」

『それはこっちのセリフだコノヤロー。倒れてたアンタをここまで運んだの誰だと思ってんだ』

「チッ」

『舌打ち!?』


少年はさも不機嫌そうに刀を下ろした。
何コイツすごく失礼なんですけど。なんだかめんどくさい奴をあたしは拾ってきてしまったのかもしれない。


『はあ……あたしは紅藤あげは。アンタは?』

「……神田」

『へえ。東洋っぽい顔だと思ったら日本人?一緒だねー』

「……チッ、オイここはどこだ」

『ねえ、また舌打ちした?したよね?ぶっとばすぞコラ』

「うるせぇ女だな」

『コイツムカつく!!』


ため息を吐く少年、もとい神田。あたしの手がでそうになったところであたしたちの話声に気付いたダニエルさんと院の子供たちが部屋に入って来た。


「目を覚ましたのかい?気分は?」

「………ここは、」


神田はダニエルさんの質問に答えることなく、逆に彼を睨みつけた。そんな神田の態度を気にする風でもなく、大丈夫そうだね、と彼は笑った。
相変わらず寛大なお心をお持ちのようで。


「ここは小さな村の孤児院だよ。君が倒れていたのを彼女、あげはが連れてきたんだ」

「コイツが…?」


そう言ってあたしを見た神田の目が余計なことをするな、と訴えかけているような気がした。
助けてやったのに何で睨まれなきゃいけないんだろうね!

神田はあたしを一瞥してから、連れてきた時に神田が着ていた服と刀を持つと部屋から出て行こうとした。


『ちょ、アンタまだ怪我が…、』

「治った」

『……は?』


意味の分かっていないあたしをよそに神田は自分の体に巻かれた包帯を解く。彼の体にあったはずの傷は跡形もなく消えていた。


「……世話んなった」


神田はそれだけ言うと、呆然と見ているあたしたちには目もくれず孤児院をあとにした。




キャパシティ0
(…どうなってんのアレ)


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