『あ゛ー、つっかれた……』
あたしはあてがわれた自室のベッドへと倒れこんだ。
『…………』
まったく…今日一日でいろんなことがありすぎた。ここに連れて来られ、リナリー達と出会い、教団内を案内してもらって、それで……。
「ここをホームって呼ぶ人もいるの」
「私はね、ここの人たちのことを"家族"だと思ってる」
「だから、あげはも今日から私の"家族"なの」
そう言って笑ったリナリー。
『家族、か……』
「あげは、」
『…………』
懐かしい声が頭の中で響いた。
そういえば初めてあたしのことを家族と言ってくれたのは彼の人だったか。それももう随分と昔の話だ。本当、懐かしい。
懐かしいからこそ………。
『…ホント、引きずり症だねあたしも』
パチン、と両頬を叩いた。
戻れないのならそれはもう仕方がない。あたしは今日からここで、黒の教団の一員として生きていく。
だから、
『明日から頑張りますか』
そう呟いたあたしはいつの間にか眠りに落ちていた。
***
次の日。
あたしは昨日リナリーに教えてもらった食堂へと来ていた。
「次の人どうぞー…って、あら?見ない子ね。新人さん?」
『あー…まあ。紅藤あげは、です』
「あげはちゃんっていうの?カワイイ子ねー!何にする?何でもつくっちゃうわよ?」
『んー…じゃあ、サンドイッチ。苺と生クリーム入ってるやつ』
「はいはーい。ちょっと待っててねー!!」
そう言ってオカマ口調の料理人さんは一度厨房へと入って行った。
なんていうか、インパクトの強い人だ。男だよねあの人。なんて考えていれば、お待ちどーん、と料理が出てくる。
あたしはそれを受け取って周りを見渡した。
『さて……どこに座りゃいいんだ?』
食堂全体を見渡しても知らない人ばかり。
そりゃそうだ。昨日ここに来たばっかなんだから。だからと言って一人で食べるのも寂しい。ボッチ、ダメ、絶対。
『…あ、』
きょろきょろと視線を彷徨わしていれば、そこでふと目に入った後ろ姿。そいつを見つけたあたしはニヤリと笑った。
うん、あの席にしよう。
あたしはそう決めてそっちの方へと足を進めた。
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