始まりの鐘が鳴る


***


「…ここだな」

『おお、いかにもって感じ』


遺跡にたどり着いたあたしたち。入り口の前で立ち止まれば、ひやりとした空気が肌に触れた。


「イノセンスの気配は」

『あー…うーん……この先にある、と思う』

「はっきりしねぇな斬るぞ」

『語尾が怖い』


あの鎧たちを倒した時のように気配がはっきりとわからないのは、きっとイノセンスとの距離が離れているせい。ここは大人しくこの先に進むしかないようだ。
とりあえず行こう。あたしは神田にそう促して、遺跡へと足を踏み入れた。

遺跡の中は一本道になっていて、迷うことなく進むことができた。
通路の壁にはよくわからない絵や古代文字のようなもの。それらは大分薄れていたし、壁の表面は脆くなっていたから随分昔の時代の遺跡なのだろう。


「!」

『うわっ!…急に止まんないでよ神田』


急に立ち止まった神田の背中に思わずぶつかってしまった。そして睨まれる。
…うん、あたしがよそ見してたのが悪いんだよねごめん。


『…あ、広いとこ出たんだね』


神田が止まったのはずっと歩いていた一本道が終わりを告げ、広い空間に出たためだったらしい。
そのホールのような場所は本当に広く、さらに天井も高い。しかし目的の氷が奥にポツンとあるだけの物寂しい空間だった。
その空間で存在感を表すのは氷ともう一つ。白色の何か。
それを神田は躊躇いもなく拾い上げた。


「探索部隊のコートだ。……殺られたな」

『みたいだねェ…。ここにあるのは全部で五着だから行方不明になっている人数とちょうどピッタリだ』


そう言ったあたしを神田は少しだけ意外そうに見た。
あらかた人の死を冷静に、いつも通りに対応しているあたしに対してだろうけど。残念ながらあたしは顔も知らない、話したこともない人の死を悲しむことができるほどできた人間じゃない。
それはきっと神田も同じ。


『…それでさーあの氷、イノセンスだけど。………どうすんの?』


あたしは神田の視線に気づかないふりをして、話を逸らした。
まあ、こっちのことも気になっていたしいいだろう。というか、あたしたち的にはこっちの問題の方が最優先事項じゃないか。
だって、


『あんなデカい氷あたしたちだけで運べるかコノヤロー』


イノセンスだと思われる氷は軽く3mはあるのだから。


「…………」

『…………神田運ぶ?』

「無理に決まってんだろ」

『ですよねー…』


とりあえず氷の近くまで二人して歩み寄ってみる。至近距離で見るとますます大きく見えた。


『せっかく見つけたのにこれじゃあなー…』

「……四等分にする」

『!?いやいやいや落ち着け神田!あれ自体がイノセンスだったらどうすんの!?』

「んなもん斬ってみねぇとわからねぇだろ」

『六幻抜くな!』


六幻で氷を四等分にする気の神田をあたしは慌てて押さえつけた。ここで斬ってイノセンスが壊れてしまったら元も子もない。


『…あ!コムイ!コムイに相談するのはどうよ!?』

「…………」


あたしの言葉にスッと六幻を下ろした神田。よかった。どうやら納得してくれたようだ。
コムイとの連絡は確かあたしの背負っていた結界装置からできたはず。


「誰だ」


あたしが結界装置を地面に下ろした直後、神田の低い声がこの空間の入り口に向かって投げかけられた。彼の声に反応するように現れたのは三人の人間。
………いや、あれは、


『人、じゃあないねアレ』

「アクマか」

『うん。にしてもホントにアクマって人の皮かぶってんだねー』


神田は六幻を構える。あたしはそれを見て数歩下がった。


「お前はイノセンスが奪われないよう結界張ってろ」

『はいはい…了解』

「六幻 抜刀」


神田が自身の指で六幻の刀身をなぞることによって刃が出現した。それと同時に今まで人型を保っていたアクマたちも本来の姿を現す。
Lv.2が一体とLv.1が二体。

あたしはこれから起こるであろう戦いをイノセンスの隣で見守っていた。




始まりの鐘が鳴る
(神田がんばれー)
(気が散るからその棒読みやめろ)



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