どさっ
まさにその言葉が当てはまるこの状況にあたしは呆然とするしかなかった。




『ヒバリくーん?この紙の山は何かな?』



「書類だよ」




書類の束をあたしの前に置いた張本人ヒバリはこちらを見ることなく淡々と述べた。
…え、何、これあたしがやらなきゃいけない感じ?


ここは応接室。
風紀委員でもないあたしが何故こんな所にいるのかって?
あたしが知りてーよ!




『せっかく今日はもらったお菓子食べようと思ってたのにぃぃぃ』




今日はホワイトデー。
あたしはクラスの皆やツナたち、結構大勢にあげたのでお返しがたくさん来たのだ。
だから早く帰って思う存分甘味を味わおうと思っていたのに…。


このKY!!


ヒュッ
ドゴォッ
突然あたしの頬を何かがかすめた。
直後に衝突音。




『………』




飛んできたのはトンファーだった。投げたのは言わずもがなヒバリ。




『ちょ、危ねーなオイ!!』


「なんかイラッときた」


『あんたそんなキャラだったっけ?てか帰っていい?』


「却下だよ」




このまま逃げようかとも思ったけど、ヒバリがもう片方のトンファーを手にしたのを見て諦めた。
あたしは応接室に置かれているソファーに座って書類の確認を始める。


あ、そういえば…




『あんたにもチョコあげたのにお返しないのー?』


「……じゃあその仕事を全部正確に終えたらケーキおごってあげるよ」


『よっしゃ、やる気超出てきた!!』


「(単純…)」




――――…


書類とにらめっこを始めて約一時間。
残りはあと少しだ。あと少しだったのにあたしはそこで手を止めた。
理由は些細なこと。ただその紙面に"銀"の一文字を見つけただけだ。
ただそれだけ。でも…




『(今年はあいつにあげることも、あいつからもらうこともできなかったなあ…)』




ほぼ毎年恒例になっていた。
どちらかが催促するわけではない。自然な行動の一つだった。
それができなくなるなんて考えもしなかった。




『(あたしは帰れるのかな…?)』


「ねえ、」


『!…ぁ、ヒバリ、何?』


「手、止まってるよ」




ヒバリの声で意識が引き戻される。
…そうだよね、今こんなことを考えていたって仕方ない。
今やるべきことは、


いつのまにか増えている書類を片すことだよね。




『…何故増やす!?』


「君がぼーっとしてるからだよ。余計なこと考えてる暇があるなら手を動かしてくれる?」


『理不尽!!』


「…はあ」




ため息つきやがったよこいつ。さっきまでのシリアス返せ。
…いや、もういいよ、ヒバリがこういうやつだってことくらい知ってるし!!




「あげは」


『何…っ!?』




呼ばれて顔を上げたら何か飛んできた。
先程のトンファーよりはるかに小さいそれ。あたしの手に収まっていたのは飴だった。




『これ…』


「それ食べてさっさと終わらせてよ」




やっぱりこっちを見ないヒバリにフッと顔を緩める。
もしかしてあたしが落ち込んでいるのがばれていたのかもしれない。




『ありがと、ヒバリ』




あたしは飴を口の中に放り込んで、仕事を再開した。


口の中で広がるのは甘い甘いいちご味だった。






たまにはこんな日が
(あってもいいかな?…なんて)
(銀時には悪いけどさ)




  

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