起きてしまったことはどうしようもない


―前回のあらすじ―
京の町で晋助にバッタリ出くわす




「あげは、か」


晋助がもう一度問うてくる。
今度ははっきりと、確信をもったかのように。

あたしは今、これ以上ないくらい焦っていた。
どうしてこいつがここにいるのか、どうやってこの状況を抜け出すか。
いや、落ち着け落ち着け。あたしは幸いにも男装中だ。
上手くいけばごまかせるかもしれない。


「おい、聞いてんのかァあげは」

『な、何言ってんですかあんた。あ…お、俺はあげはじゃねーですよ!』

「…………」

『…………』

「……そうかい。そりゃ悪かったな」


沈黙の後、そう言って晋助はあたしに背を向ける。
やった!なんとかごまかせ…「なんて言うと思ったかてめー」………。

ば、ばれてなすったァァァ!!
怪しい笑みを浮かべながら近づいて来る晋助から逃げようと後ろへ下がる。が、途中で壁にぶつかって逃げることを阻まれた。
ここは路地裏。前には晋助、後ろには壁。
あ、これ終わったな…。


「で、なんでてめーがここにいるんだァ?」

『それはこっちのセリフだ馬鹿。てか、あたし男装してんのになんでわかっちゃうのさ』

「もともとこんなんだったろ」

『こんなんて何』


それはあたしが普段の恰好してよーが男装してよーが変わらないって言いたいのかこいつは。久しぶりに会ったってのに失礼じゃね!?
…おっといけない、話がそれたよ。
あたしは一つ咳払いをして晋助の方を見る。


『…晋助、ここ…異世界だよ』

「は?」


あたしの言葉にさっきまでの表情をなくして目を丸くする晋助。
だけどそれも一瞬で真顔に戻る。


「ついに頭やられたか」

『やられるかァァァ!!こっちは大真面目だっての!!』

「証拠は」

『…証拠は、ってか今から全部説明する』


そうしてあたしは晋助に今起こっていることを説明する。
ここは京であってあたしたちの知ってる京じゃないこと、ここに天人はいないこと、科学技術も進んでないこと、いまここにいるのはあたしと小太郎と晋助だということ、そしてあたしと小太郎はここに来る前桜を見たということ。

晋助は壁に寄りかかってあたしの話を聞いていた。目を閉じ腕を組んで考えこんでいる姿はなんか様になっている。
晋助は考えがまとまったのか目を開けこっちを見た。
そして…


「ヅラもいんのかよ」


至極嫌そうな顔で言い放った。
そこかよ、とか思ったけどあんたら昔っから馬が合わないもんね。てか、あんたと馬が合う奴いるのかって話だけどね。
そもそもあたしが聞きたいのはそんなことじゃねーよ!


『あたしが聞きたいのはあんたも桜を見たかってことだよ!!』

「……あァ…見た」


晋助の返答にあたしは黙る。
ああ、これはやはりあの人に関係していることなのだろうか。
それならば何故…。

あたしたちは向かい合って佇んだまま動かない。
おそらく考えていることは一緒なんだろうな。

先に声を発したのは晋助の方だった。


「…まあ、考えていても仕方あるめェよ。とりあえず今はヅラんとこ行こうや」

『うん、そうだね…ってあ、』


そういえば今あたしたちがお世話になってる場所新選組って言ってねーや。
さすがにこれは言っておくべきだと思い、あたしは路地裏から出ようとする晋助を引き留める。


『ちょっと待って晋す…「あげはちゃん!!」…え?』


あたしの言葉を遮って現れたのは総司だった。
ちなみに今のあたしの状況は路地裏で晋助の袖を掴んでいるというものだ。
焦ったような総司の表情がみるみる笑顔に変わっていく。背後に般若というオプション付きで。


「屯所抜け出してこんな所で何してるの?あげはちゃん」

『え゛、いや、えっと…』


あたしの目は今きっとバタフライしていることだろう。
なかなか答えないあたしに総司は死刑宣告を言い渡した。


「話は屯所に帰った後じっくり聞くから」



(おいあげは、こいつァ誰だ?)

(そういう君こそ誰なの?)

(何この板挟み)


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