僕は桜が嫌いだ。春が嫌いだ。
そんな季節に、僕は“彼女”と出逢い、永遠の別れを遂げた。
それは二年前に遡る…
僕は風邪を拗らせて、並盛中央病院に入院していた。
その時は、草食動物や赤ん坊に会う前で、とても暇だった。
仕方ないから、散歩がてら病院内を回った。
そして、とある病室の前を通り掛かる。
扉が開いていて、どうやら個室らしい。
そこには一人の少女がいた。
それが僕と彼女の出逢いだった。
彼女はベッドの上で、儚げに窓の外を見ていた。
そんな彼女が何故か気になって、僕は散歩をしていた事を忘れ、立ち止まったまま、目線を彼女に向けた。
そうしたら目が合って、彼女は笑みを浮かべ、僕にこう言った…
「良かったら、私とお話しませんか?」
初対面の相手に何を言っているのかと思ったけど、まあ暇だったし、僕は彼女の誘いに乗った。
彼女はもうずっと前から、この病室にいるらしい。
どんな病気かは言わなかったし、聞く気もなかったけど、風邪を拗らせた程度ではない様だ。
彼女は入院中、同年齢の人に会うのは僕が初めてだったらしく、嬉しくなってつい声を掛けてしまったらしい。
普段僕は、誰かと話をするなんてしないけど、彼女とのこの時間は別に嫌じゃなかった。
それから僕は毎日彼女の病室へ行き、彼女の話し相手になった。
僕は自分の話をあまりしなかったし、彼女の話に大した相槌は打てなかったけど、彼女はとても楽しそうだった。
退院した後も、僕は暇があれば彼女がいるあの病室へと向かった。
どうして僕はこんなにも彼女のことが気になるのだろう…
でも今思えば、彼女が僕の“初恋”だったんだ。
そんな日々が続き、
春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が過ぎた…
そして彼女と出逢って一年が経った春、
彼女は前触れもなくこの世を去り、彼女がいたあの病室はただの真っ白な部屋に戻った。
その後、彼女の母親から聞かされた。
僕と出逢った時、彼女の病気は既に末期で、余命はもう二ヶ月程しかなかったらしい。
だけど、僕との時間が彼女に生きる力を与え、ここまで延命して来れた。
彼女の母親は僕に感謝していた。
でも、僕は別に感謝される様な事はしていないし、彼女がいなくなったところで何も変わらない。
強いて挙げるなら、とてつもなく“春”が嫌いになった。
今年も嫌いな春が訪れた。
桜の花びらが、僕の代わりに彼女を悼む様に舞った…
ひらりと舞ったのは、君と僕の思い出
彼女の死を受け入れるには、
まだ僕は大人じゃなくて、
ただただ、彼女と出逢った春を嫌う事しか出来なかった…
end.