任務で人が出払い、使用人と私、ザンザスしかいない屋敷の執務室で、私たちは向かい合って座っていた。
ザンザスはデスクに。私はデスクの前にあるソファに。



「私、今とても悲しいの」



何でとは聞かれなかった。
だからどうしたとも言われなかったし、無視もされない。



「どうすればいい」


「泣きたいわ。今にでも涙がでてきそうなの」


「そうか。なら、好きなだけ泣けばいい」



彼に似合わず優しく、でもどこか不慣れそうに笑うザンザスに、私は思いっきり眉をしかめる。
気持ち悪いと思った。だから声にだしてみた。
そうすれば少しだけ不機嫌そうな顔をして、彼は至極当然のように言うのだ。



「好きな女に笑ってほしいと思うのはいけないことか?」


「ええ、いけないことよ。だって、あなたらしくないもの」


「ならば、俺らしくすればいいのか?」


「そうとも限らないわ。だって、私あなたのこと嫌いだもの」



理不尽なことを言っていると自分でも思う。
眉間の皺が深くなったのを見て、ソファから立ち上がる。
どこに行くのかと訊かれ、あなたには関係ないと答える。
冷たい女だ。何でこんな女が好きなのか気になった。でも、尋ねることはしない。
扉のノブに手をかけようとしたら、呼び止められた。とても低くて、でも心地よい低音。



「命令だ。俺の愛を受け入れろ」



何を言っているんだこの男は。
そう呆れて、振り返る。
まるで拒むことは許さないと、そう言外に告げる紅蓮の瞳。
ぞくぞくと震える背中。甘美に酔しれる女。今にでもイッてしまいそう。



「Si capo.」



私悲しかったの。
最近あなたが命令してくれないから。





 
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