明日はいよいよ19日ですね、という担任の言葉に、一斉に歓声が上がった。何をしようかと相談の声がちらほらと聞こえる。今月は3月。ジャッポーネでは雛祭りも終わり、だらだらと次の行事を待つのだろう。しかし、イタリアでは違う。なるほど、明日は3月19日かと反芻して席を立った。「先生お願いがあります」私の言葉に、今までの騒がしさが嘘みたいに静かになる。可愛らしい笑み(笑)を浮かべながら何と問う先生に、負けじと笑みを返しながら答えた。


「ゼッポレのつくり方をおしえてください」










3月19日は聖ジュゼッペの日とされている。ジュゼッペとは日本で言うところのヨゼフ。キリストの父親だ。つまり、父の日ザンザス様の日おめでたの日!その日、イタリアではゼッポレを食べる習慣がある。何故かは知らない。だから訊くな。まあ、そんなわけで作ったゼッポレは、意外と綺麗に出来た。見た目も超美味しそうだし。さすが天才なまえ様!私すごい。私カッコイイ。私ステキー!


「誰かー。今すぐ医者を呼んできてくださーい。出来れば頭の」


いつの間にか私の背後に現れ、失礼なことを言うフラン。だが、大人な私はこれしきのことで怒らないのだよ。くるりと一回転して、余裕綽々に笑んでみせる。


「フッ、フランよ。そんなことを言ってられるのも今だけよ。さあ、これを見よ!そして跪け私を崇め讃えよ!」


そう言ってフランの目の前にゼッポレを突き付ける。一瞬キョトンとしたが、直ぐに私がゼッポレを持っている意味が解ったのか、ああと納得したように頷いた。


「今日は聖ジョゼッペの日でしたねー」
「そういうこと。で、肝心の主役様がどこにいるか知ってる?」
「ああ、ボスなら」



「此処だ」


またまた私の背後から聞こえた声。ハッと振り返れば、私を見下ろす紅蓮が二つあった。やーんパパンったら、こんなところで会うなんて奇遇ね!もしかしてこれが運命ってやつ?なんて言いながら、ザンザスの腹をバシバシ叩く。


「……何言ってんだ」


言外に大丈夫かこいつの頭と言っている。いや、気のせいだ。本当は、相変わらず可愛いやつめ☆に違いない。やだぁ、パパンったら照れ屋さんなんだから。


「ごめんねパパン。私、パパンの気持ちに応えられない!」
「現実をみなさい」


スパーンと良い音が響き渡る。それはフランに頭を叩かれた音だ。何すんの!とフランを睨む。そんな私に嘆息をついたあと、握っていたゼッポレの入った袋を奪い取った。取り返そうとする間もなく、ザンザスに押し付ける。空気に流されるまま受け取ったゼッポレを眉をひそめて見ている。というか睨んでいるようにしか見えない。


「何だこれは」
「なまえサンからのプレゼントだそうですー。ほら、今日は3月19日だから」


何か言う前に、全てフランに言われてしまった。降りた沈黙がいたたまれない。やだぁ、恥ずかしい〜なんて言ってくねくねしながら誤魔化したい。それくらい気まずい。何も言わないザンザスに不安になって見上げれば、らしくもなくポカーンと手中の袋を見ていた。それに不安になってパパン…?と声をかければ、ようやく紅が私に向いた。


「………ん」


それだけを言って私の頭を乱暴に撫で、さっさとどこかに行ってしまった。ちなみに、例のお菓子はしっかりと握っている。乱れた髪を直しながら一体どうしたのかと、遠ざかるザンザスに首を傾げる私の後ろで、フランが小さく呟いた。


まったく。素直じゃないんですからー。





 
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