スクアーロと私の部屋。それはヴァリアー邸で唯一の相部屋というもので、数年前結婚した私たちに特別に与えられた部屋だ。珍しく気を利かせてくれたボスに、このときほど感謝したことはない。それから始まった同居生活は、今までと大して変わらなかった。同じ屋根の下で暮らしていて、顔を合わせることは当たり前。相手の私室に押し掛けてそのまま一夜……なんてのは、最早日常と化していた。だから同じ部屋で暮らし始めたとき、あまり新鮮味というものはなかった。それからも今までと変わらない日々を送って、そしてこれからもだと思っていた。


「パパン大変よ!今日のディナーにお肉が出ないんですって!」


…そう思っていた。実際にはそうならないのが現実というものだ。妊娠、と。なんと解りやすい夫婦イベントだろうか。妊娠が発覚したときはお祭り騒ぎだった。ボンゴレやらキャバッローネから御祝いの品が山のように届き、幹部の皆も祝福してくれた。皮肉なことに結婚したときよりもだ。暗殺者から産まれた子どもなら、きっと才能に恵まれていると言ったマーモンに、笑えないと返したのを覚えている。
産まれてからも皆何かと世話を焼いてくれて、五歳に育った我が子は皆の性格を凝縮した感じになってしまった。家庭的で、趣味は料理にお裁縫。ここまでは良い。女の子らしい素晴らしい子だと、私も親バカ根性丸出しで答えられる。問題はここからだ。自分は天才だと過信している自己中の毒舌吐き。好きなものは肉と金とボス。利用できるもんは全部利用してやんよ。な、コメントのしようがない子に育ってしまったのだ。

今も肉がないと騒いでは、スクアーロに駄々を捏ねている。肉がなきゃ生きていけないそうだ。さすがに言い過ぎだろ。と、対処に困ったのかスクアーロが私に目で合図を寄越した。助けてくれと視線で言っている彼に、仕方がない旦那様だと座っていたソファから立ち上がる。


「こら、あんまりスク……パパンに無理を言ったらダメでしょ?」
「でもね、ママン仕方がないのよ。わたしはザンザス様のせいで、お肉がなきゃ生きていけない身体になってしまったの」
「まあ、あながち間違ってねぇなぁ」


納得したような顔で頷いているスクアーロの後頭部をひっぱたく。あら、それは大変ね。この際ベジタリアンになったら?と軽くあしらう私に、頬を膨らませた。まるで風船みたいだなと呟いたスクアーロに、その風船は更に膨らむ。ああ、本当。風船みたい。言いながら頬をつつけば、唇から空気がぬけた。嗚呼、こんな些細な日々が極上の幸せなの。





.
- ナノ -