一緒に帰ろ?
「全くあのクソ迷子野郎……」
こんな小さな島でもやっぱり迷子かよ!
どーせ港と真反対の場所にいるに違いない…。
「…お、」
あの緑頭は間違いない。
背景と同化してるけど…
「こら、マリモ野郎」
「おー…コック」
「出航時間過ぎてるってナミさんがお冠だぞ」
「ん〜…」
島にある街から外れた場所にある草原に寝転がったまま起きようとしない。
「どーした?」
せめて日が暮れるまでに船へ帰れればいい。まだ時間はあるから、しゃがみこんで優しく聞いてみた。
「……」
「…ゾロ?」
船にいる時よりも更に、ぼんやりとしたあどけない表情のままこちらを見てくる。
緑頭を撫ぜながら答えを待つ。
「…ふたりっきりだな」
「…え?あ、あぁ…そうだな…」
らしくない言葉にドキリとした。
さらさらと風が吹いて、んーっと伸びをしてから起き上がる。
俺の左に座るから、赤い瞳は見えない。代わりに額から頬に走る鋭い傷跡が見える。
「…あいつらも、この島の奴らもいねぇんだな」
「そう、だな…」
穏やかな雰囲気のゾロがこちらを向く。いつもの眉間の皺がないゾロはとてつもなく美しいと見惚れてしまう。
「な、コック」
「…ん?」
「帰りたくねぇ」
「…はは、そりゃ俺とずっと2人でいたいってことか?」
否定も肯定もしないで、ぽすんと胡座をかく俺の足を枕に、再び寝転がる。
腰にぎゅうと抱きついてからようやく、緑の頭がこくりと頷くように動いた。
「ゾロ、何かあったのか?」
「…ん…」
「返事になってねぇよ…」
もぞもぞと寝心地のよい場所を探すゾロの頭をまた撫でる。
「ゾロ…帰ろう?みんな待ってる」
「ん…」
ゾロは強いから、迷子になる以外に心配はいらない。
だけど時々、フッとどこかへ消えてしまうかのように儚くなるのだ。
何故かはわからないし、弱くなったとか頼りなくなった訳じゃない。
抱きしめて、「大丈夫だから、行くな」って言いたくなる時があるのだ。
「ぞーろ」
「うん…」
ポンポンと背中を叩いて起こそうとする。
自身の全てを預けられるぐらいに頼れるのがゾロだ。だから、俺を含めたクルー全員、その瞬間になると堪らない寂寥感に襲われてしまう。
「コック、」
「ん」
くるりとゾロの顔がこちらを見る。
やっぱり子供みてぇだ。親とはぐれてひとりぼっちで寂しい…そんな表情。
「コック」
「なぁに、ゾロ」
腕を伸ばしてひた、と俺の頬に手を当てる。俺はその手に自分の手を重ねる。
「あと少し、こうしてたい」
「…仕方ねぇなぁ…」
元のお前に戻るまでずっとこうしといてやるよ。
だからゾロ、一緒に帰ろう?