だって誰よりも美味しいから 前編




「おら、クソ吸血鬼ー。生きてっかー?」
「……んぁ…………」
「おーおー、元気そうじゃねぇか」
「………ん…さ、んじ…?」
「…お前俺以外の人間の血も吸えよ…」
「…やだ」

町の外れにあるデカい屋敷。
無駄に立派な造りではあるが人の気配は殆どしないこの建物には、1人の吸血鬼が住んでいる。

名前はゾロ。年は多分100歳ぐらいとゾロは言っている。見た目は俺と同じか少し若いぐらいだ。
萌黄色の髪に、自分の命の源である血みたいな緋色の瞳。


去年の今くらいの時季に、俺の大学からの帰り道でぶっ倒れていたこいつを助けてしまった。これがこのダメ吸血鬼との関係の始まりだ。

緑色の頭で黒ずくめの奴が前方に倒れている。明らかに変人…もしくは変態と直感で判断し、ここは見て見ぬ振りが最善だ。と前を通り過ぎようとしたら声をかけられた。
『…なぁ、あんた………俺すげぇ、腹減ってんだ』
他の言葉だったらスタスタと歩いていっただろう。けど、食べることの有難さとか重さを知っている俺にはそんな飢えてる奴を見過ごすわけにはいかなかった。


『………なんだ、テメェ腹空かしてぶっ倒れてんのか』
『……あ…あぁ、…かれこれ…2週間か…?』
『なんで疑問形なんだよ……』
『記憶があんまねぇ……』
『…立て』
『………?』
『……立てっつってんだろ?飯、食わせてやる』
『……ほんとか?』

俺がああと言う前に倒れていたはずのそいつは目に追えない速さで俺の首筋に喰らい付いてきた。

『はっ!?てめっ、何しやがる!?』

野郎に肩抱かれて首筋に噛みつかれるなんざ思ってもいなかった。
そして次の瞬間、つぷりと何か太い針が刺さるような痛みがして、俺は余計パニックになった。

『ん……んく………』
『は…?おい…!お前、まさか……!』

ゴクゴクと喉が液体を嚥下する音と、ハァハァと荒い吐息が耳の側で聞こえた。

……まさか、この世にいるわけねぇ生き物なのに。…ありゃ物語とか空想の中にいる奴らだろう!?
混乱状態だった俺の頭でさえ、こいつは人じゃないんだとわかった。

こいつはヴァンパイアなんだと。

『テ、メェ……!いい加減離せ…!!』

ぐいっと肩を思い切り押せば、ようやくそいつは俺から離れた。

『…ぷは……は…はぁっ……』
『この……何すんだテメェ!!』
『ん………美味かった…』
『あ!?……って、オイッ…!?』

そう言って、恍惚とした表情のままそのヴァンパイア野郎は意識を失った。
頭から倒れる!と血を吸われたばかりなのに、俺はそいつを支えるように抱きとめた。

『し、死んだのか……?』

恐る恐る腕の中のヤツを見れば、なんともまあ幸せそうな顔でスヤスヤと眠っていて、何故かすごくホッとした。

『……って、これ、どーしろってんだ!!』

人通りの少ない夜の街路で俺は独り、叫んでいた。



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