誰よりも幸福




「ゾーロ」
「あ!さんじ!こんにちわ!」

近くの商店街をふらついていたら、洋菓子店の前にゾロがいた。

ゾロは俺の家の隣に住む5歳の男の子だ。ゾロが赤ん坊のときから一緒にいるから、本物の兄弟みたいとよく近所の人から言われる。
今日はオーバーオールに白シャツともっこもこのフード付きカーディガン、足元はいつものスニーカー。随分と暖かそうな格好だ。

「こんにちわ。どーしたんだ?1人?」
「んーん、いま、みほーくがえらんでる!」
「入んねーの?」
「なか、あつい!」
「カーディガン脱げばいいじゃねぇか」
「や!ぬぎたくないー」
「そうなの?」
「そうなの!さんじは?」
「俺は夕飯の材料買いに来た」

それも終わってふらふらしてたんだけどな。

「なにつくるの?」
「ロールキャベツだ」
「ロールキャベツ!いいな!おれもたべたーい」
「食いにくるか?」
「ん……んー…いきたいけど、今日はみほーくがつくってくれるから!」
「そっか、じゃあ今度食いに来いよ?」
「おう!」
「……ミホーク、遅いな」
「きっとすごくなやんでるんだ!」

ちらりと、中の様子を見るとゾロの言う通り、ショーケースの中のケーキと睨めっこ中のミホークらしき人影があった。
…おいおい、お店の女の子がビビってんじゃねぇか。

「……ひ、ぐしゅん!」
「んだ、ゾロさみぃのか?」

冷たい風が吹いて、小さなくしゃみがひとつ。
どうやらそこそこの時間ミホークを待っているらしい。
…カーディガン脱いで中入ってりゃいいのに。

「さむくない!ちょっとぶるってなっただけだ!」
「それを寒いって言うんだよ…」
「さむくな…くっしょん!……」
「やっぱ寒いんじゃん。」
「……さむくない」
「…ったく……おりゃ!ほーら、こうすりゃあったけーだろ?」
「きゃあ!さんじ、ヒゲちくちくする!」

寒がるゾロを抱き上げた。それからぎゅうと温めるように抱き締める。
寒いといってもさすが5歳児。俺よりも暖かい。
ぎゅうぎゅうとしながらゾロのふわふわの頭に顔をうずめる。ちょっと汗ばんでて、甘酸っぱい匂いがして、ほぅっと癒される。

俺にだっこされるのが大好きなゾロは腕の中できゃっきゃと喜びながら、俺の首にぎゅっと抱きついてくる。

「ゾロ、あったかいかー?」
「あったかい!」
「そうかーよかったよかった。」
「さんじはー?」
「んー?俺もあったかいぞー」
「えへへ〜」

2人で抱き締めあいながらミホークを待つ。

「…すまない、ゾロ、待たせたな」
「ミホーク!おそいぞー!」
「いつものやつが売り切れでな……サンジもすまなかった」
「いや、大丈夫。ほら、ゾロ帰りな?」
「やー!さんじとかえる!」
「ミホークと帰んねぇの?」
「みほーくと、さんじとかえる!」
「…一緒に帰ってもらってもいいか?」
「もちろん!」

普段は鷹揚と、しかし威厳のある表情と態度で人を寄せ付けないミホーク。そんなおっさんでさえも大事なゾロにはとても甘い。鷹みたいに鋭い目は柔和なものになり、口元には優しげな笑みが浮かべられている。
それと、この大きな目で見つめられながらのわがままにはとてもとても弱い。

「えへへ、さんじとみほーく!」

ゾロは大好きな2人と一緒に帰れることに大変ご満悦なようだ。
ミホークに、晩飯の材料を持ってもらったからまだいいけど、そんなにはしゃがないでくれ…

「…すまんな」
「いやいや、ゾロならどーってことねぇよ。こっちこそ荷物持ってもらってるからさ、おあいこじゃね?」
「おあいこー!」
「…そうだな」
「だろ?」
「みほーく、おあいこ!」
「…お前のわがままのせいなんだからな?」
「おあいこー!」
「……どーやら"おあいこ"が気に入ったようだな」
「だな」

まったく…とミホークが呆れる。
でも、やっぱりその表情は愛情に溢れていて、こっちまで優しい気持ちになる。

「おれ、みほーくとさんじ、大好きだ!!」

夕日に照らされたゾロが大きく、宣言した。



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