銀時と土方が顔を合わせればたちまち喧嘩が始まる。お互いに意地を張り合い言い争いをする2人は、新八と山崎の2人にとってはもう見慣れた光景だった。
地味だなんだと言われる2人の男がお互いに気付くのに時間はかからない。その横に目立つ2人がいれば当たり前だ。新八と山崎は今日もきっと素直にすれ違うことはないんだろうことを感じ取り、お互い軽く会釈をしたそのときだった。

「山崎」

山崎の隣を歩く土方がぴたりと足を止める。

「副長?」

土方はくるりと反対側に方向転換をした。

「ルート変えるぞ」
「ええ!?」

そう言って早足で歩きだした土方に、山崎は食い下がる。

「どうしたんですか副長! 何があったんですか!」
「うるせえ俺が変えるっつったら変わるんだよ黙ってついてこい!」
「いつもだったら万事屋の旦那を見かけたら、アイツのせいでなんで俺たちがルート変えなきゃいけなんだよってそのまま突き進むくせに! それでいつもいつも喧嘩するくせに!」
「大人になったんだよ俺も! いいから黙って行くぞ!」
「うそでしょ!?」

道の往来でぎゃあぎゃあと騒ぎ出した2人を見ていた新八は、何かあったんですかねと銀時に視線をやる。と、そこで新八はいつもと違う雰囲気を感じ取った。

「あれ、銀さん?」

銀時の目が泳いでいる。「ねえ、銀さん?」という新八の問いかけを聞きながら、銀時の頭の中はめまぐるしく回転していた。このまま顔を合わさずにくるっとUターンすべきか、それともお互い覚えていないのをいいことに意識せずにこのまま行く方がいいのか。いつもの銀さんならきっとこのまま進む。そしていつも通りあの男に接するのだ。意識しまくりなあの男に、何をそんなに意識しているのだとからかってやるのだ。それがいい。
銀時はよし、と声に出して言うと、一体なんだと不思議そうな新八の視線を無視して未だに騒いでいる黒ずくめの2人に近付いていく。

「ぎゃあぎゃあとうるせえんだよこんな道のド真ん中で。迷惑なんですけどそれでもおまわりさんですかあ? 市民の皆さんに迷惑かけるのがおまわりさんの仕事ですかあ?」

銀時が声をかけた瞬間、土方は勢いよく振り返る。そして銀時をひとしきり睨んだ後、土方はふと俯いた。山崎と新八は言い返さない土方に対して戸惑いを隠せない。

「え、副長どうしたんですか」

自分を心配する山崎の声を聞きながら、土方も頭の中でどう対応するのがベストなのか考えていた。これでは自分だけが意識しているみたいだ。向こうもそれをからかってきているだけなのだ。覚えていないのだから忘れてしまえばいい。なかったことにして、今まで通りにすればいい。意識する方がバカなのだ。そうに違いない。
土方は頭の中で自分の考えをまとめると、また勢いよく顔を上げて口を開こうとした。
だが、そうもいかなかった。

「……テメェ」
「……な、なんだよ」

銀時の目は明らかに泳いでいた。意識しているのは向こうも同じだ。しかしながらそれも当然ではあると思う。お互い覚えていないにしろ、恐らく夜を共にし体を重ね合った仲なのだ。意識しない方が難しいというものである。

「意識しないようにしてるつもりで俺をからかいにきたんだろうが……バレバレなんだよ」
「な、何を言ってるのか銀さんさっぱりわからなーい」
「とぼけんじゃねえよあんな胸糞悪いこと忘れられるわきゃねえだろ!」
「ううううるせええ! もうお前喋るんじゃねえよ思い出しちゃうだろあー折角忘れてたのに!」
「始めっからなんも覚えてねえだろうが俺たち!」

いつもとはテンポが違う。傍で聞いていた2人はそう思った。テンポだけではなく、なんとなく2人の雰囲気も違う。なんだかふわふわしているのだ。そしてお互いに視線がおかしい。いつも2人は真っ直ぐお互いを見て喧嘩をしていた。だが今日はどうだ、目線が合うと気まずそうに2人して視線を逸らすのだ。何かがおかしい。

「絶対何かありましたよね、あれ」
「副長、万事屋の旦那の名前出すだけで切腹とか言いそうなくらい睨んでくるからね」
「ああそれ……銀さんも土方さん見かける度に最近ちょっとぴくってしますよ」

新八と山崎は2人顔を合わせた。

「俺、ちょっと副長の最近の動き調べてみるよ。気になるなら教えるけど」
「はあ、まあどうでもいいんですけど……でも何か分かれば教えてください」
「了解」

そう言って2人は変な空気を纏いながら喧嘩をする銀時と土方の仲裁に入った。



僕の記憶が正しければ、確か君たちは敵同士じゃなかったっけ?

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -