人間であるスレイとアリーシャ、そして天族であるミクリオ。この3人での生活が始まってどれほど経つだろうか。アリーシャはここ数年ミクリオが傍にいたことで、スレイに負担をかけることなく天族を捉えられるようになっていた。最初こそ3人での生活には苦労したものの、今ではすっかり馴染んでしまっている。

「ミクリオ様、起きていらっしゃいますか」

まだ陽が昇りきっていない頃、アリーシャがミクリオの部屋を訪ねてきた。たまたま早く目が覚めて椅子に腰かけて読書をしていたミクリオが入っていいよ、と返事をすると、なんだか困ったように笑うアリーシャが入ってきた。

「こんな朝早くからどうしたんだ?」

いつもはこの時間まだベッドにいるはずのアリーシャが訪ねてきたことに驚いたミクリオがそう問う。アリーシャは言いにくそうに口を開いたり閉じたりしていたが、暫くすると意を決したようで、ついてきてくださいと一言言った。

*

アリーシャが向かったのはキッチンだった。足を進めるにつれてなんだか嫌なにおいがしてきたのは気にしないでいたのだが、キッチンについた途端やっぱり、と思わずため息が漏れた。

「す、すみません……」
「いやいいよ。それより、どうしてこんなことに?」

キッチンにあったのは異臭を放つ物体であった。その傍にはお弁当箱も置いてあり、自分用のお弁当作りに失敗したのかとミクリオは予想する。

「お弁当を作ってさしあげようと思ったのですが……慣れないことはするものじゃありませんね」

そう言って笑うアリーシャに、ミクリオは目を丸くした。

「お弁当……誰に?」
「スレイと、ミクリオ様にと思ったのですが」
「……スレイと、僕にも?」
「はい。ミクリオ様にもです」

ですが、結局食材を無駄にするだけにしてしまいましたと申し訳なさそうにするアリーシャを抱き寄せて、頭をぽんぽんと叩く。「ミクリオ様?」と顔をあげようとしたアリーシャをその手で制した。今この最高に緩んだ顔を見られるわけにはいかなかったのだ。

「ごめん、暫くこのままで」
「はい?」
「落ち着くまででいいから」
「ミクリオ様、怒ってらっしゃるのですか?」
「怒ってないよ。寧ろ嬉しいさ」

ミクリオはアリーシャの体を離してきちんと目を合わせた。

「食事のいらない天族の僕にまで作ってくれようとしてありがとう。気持ちだけでも十分だ」
「あ、ありがとうございます! ですが……」
「料理はこれからもっと特訓しよう。……アリーシャの作るお弁当が早く食べたいしね」

最後の言葉はなんだか面と向かって言うのが恥ずかしくて、ミクリオは思わず視線を外してしまう。それでもアリーシャが嬉しそうな声で「はい!」と返事をするのが聞こえて、赤い頬を隠すのも忘れて2人で笑った。




ああ困った、どうやら自分で思っていたよりも僕は君のことが好きみたいだ

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