「さあ、食事ができたよ」

光忠がそう言って食事を運んできた。並べられた食事はどれも美味しそうで、皆が瞳を輝かせる。清光は運ばれてきたあるひとつの料理を見て、声には出さなかったもののげっと顔を顰めた。

「どうかしました?」

審神者が清光の表情に気付いて問うが、清光はなんでもないよと笑って誤魔化す。そんな清光の横腹を安定がつついた。

「嫌いなんでしょ、あれ」

安定が指を指したのは、まさに清光が見て顔を顰めた料理。清光は言うなよ、と安定に小声で言った。

「なんで?」
「好き嫌いがあるめんどくさい刀だって思われたくない」
「今でも十分めんどくさいと思うけど?」
「今の俺を主はちゃんと可愛がってくれてるからいいの」

いただきますと言って、清光はさり気なく苦手な料理を避けて食べていた。その料理がちょうど清光の位置からは取りにくいところにあったのも幸いしていた。安定はその様子を見て意地悪してやろうかと考えたが、後から何か言われても面倒だと思い今回は大人しくしていた。清光の敵はいないように見えたのだが、ここで清光に思わぬ敵が現れる。

「ん? 清光の位置からはこれが取りづらかったか?」

光忠がそう言ってその料理を清光が取りやすいように差し出してきたのだ。清光はひくりと頬を引きつらせたがそれも一瞬だった。

「あー、それ、今は気分じゃないからいいよ」

うまく切り抜けた、と清光も安定も思った。しかし光忠は引き下がらない。

「じゃあ先に取っておくといい。ご飯はバランスが大切だからちゃんと食べなきゃな」

ほら、と更に差し出されて、清光は思わず安定を見る。安定は困ったように笑うしかなかった。だがここで気付く。清光は安定に助けを求めていたのではなかった。お前のこと使わせてもらう、そう小声で言っていた。

「清光……?」
「そうねーバランスは大事大事」

誰が聞いても分かる棒読みでそう言った後、そういえば! とわざとらしくさも今思いついたとでもいうような口調になる。

「そういえばこれ安定も食べれてなかったんじゃない?」
「え」

突然自分に振られて、安定も驚いた。だが別に安定はこの料理が嫌いというわけではなく、ただ単に取りづらかったから食べていなかったというだけなので問題はない。

「そうだね。僕の分一緒に取ってくれるかな」

恐らく清光は二人分だと取ったものを安定の皿に入れるつもりなのだろう。これは貸し1だぞと清光に視線で訴えると、分かってると頷きが返ってきた。これで一件落着かと思ったそのときだった。光忠の思いもよらぬ行動に、2人の思考は追い付けなくなる。

「他にも食べられなかった者がいるだろう? 今これをそっちに持っていこう」

光忠はそう言って、その料理を持って立ち上がった。目の前に持ってこられては、二人分と誤魔化すことは難しくなる。そこで俺が皆の分とるから! とか俺が取りに行くから! とか言えれば良かったのだが、清光はもう終わったと思い油断していたのである。次の策を考えねばと思考が戻ってきたときには、光忠が既に目の前にいた。

「どうぞ」

清光は一向に箸を向けようとしない。安定はとりあえず取っておけよと言ったのだが、清光は動かなかった。よくよく考えたら自分の使う箸にこの料理の味が付くということだ。それに気付いてしまい動けなかったのである。

「えっと、俺」
「中々美味しくできたと思うよ。そら、口開けて」
「え」

光忠が清光の手から箸を奪った。そしてあろうことか清光の口の前に持ってきたのである。清光はチラリと審神者を見る。審神者も中々動かない清光を不思議に思っていたのか、視線は清光の方を向いていた。清光は目をぎゅっと閉じて覚悟を決める。主に嫌われないためだ、これからも可愛がってもらうためだ、そう言い聞かせながら恐る恐る口を開けると、容赦なく苦手な味が口の中に広がった。咀嚼するたびにじわり、じわりと広がる味に涙が出る。

「泣くほど美味しいか?」

そう聞く光忠を清光は睨んだ。涙目になりながら光忠を睨み、必死に口の中のものを飲み込もうとする清光に対して光忠が思ったことといえば、なんだかイケナイものを飲み込ませているみたいだということ。口に出したらどんな扱いを受けているのか予想がつくので言うことはしなかったが、たまにはこういう顔を見るのも悪くないと思った。


あ、今の顔エロいね

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