千歳先輩が怖い。それは別に全国大会の件が関係しているとか、何かされたとかそういうわけではなく。もっと単純に、一体何を考えているのか分からなくて怖い。

「あの、何するん…?」
「ん? 怖いことじゃなかよ」

固い部室のベンチに倒れる俺の上に、口元にだけ笑顔をはりつけて迫ってくる。大きな体で覆い被されてしまえばもう逃げ道はない。

「光くん」

じっと見てくる眼差しに耐えられずふいと顔を背ければ、こっちを向けと大きな手が頬に触れた。

「千歳、せんぱ、」

そのまま無言で顔が近づいてきて、唇に暖かい感触。思わず目を見開いて硬直した俺なんて気にせず、千歳先輩はちゅ、と音を立てて唇を離す。何も言えずにぽかんと口を開けて固まる俺を見て、千歳先輩が口を開いた。けれど俺には何も聞こえなくて、また近づいてくる唇をかたまって見ているしかなかった。

「ふっ…む、」

俺が動けるようになったのはその二度目のキスの間。ぬるりと生暖かい舌が口内に入ってきて、驚いて反射的に手を動かした。千歳先輩の胸板に勢いよくどん、と叩き付けたけれど気にしていないようで、その腕をやんわりと掴まれてしまう。

「ん、んんんっ、ん……」

激しさを増す舌の動きは確実に俺から酸素を奪っていく。頭が朦朧としていく中でやけに冷静な自分もいた。千歳先輩は、俺をこのまま窒息死させる気なのだろうか。何故かそれでもいいと思ってしまった。
けれどそういうわけではなかったらしい。暫くして千歳先輩の唇が離れた。ぼうっと離れていく顔を見る。千歳先輩は笑って口を開いた。

「好いとうよ、光くん」

今度ははっきり聞こえた言葉が脳内で処理される前に、千歳先輩の指がユニフォームの裾を捉えた。あ、やっと先輩が何を考えているか分かったかもしれない。食べられてまう。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -