※普通の高校生っぽい





ダン、ダンとドリブルの音が体育館に響く。トキヤはその場に立ち止まった。これはただ先生の都合で行われた一回きりの合同体育なわけで、成績に反映されたりは一切ない。それでも完璧主義のトキヤはこの試合、勝たなければ気が済まなかった。
一度立ち止まってしまったからにはもうドリブルで突破することはできない。ここでどうパスをするかで勝負が決まる。けれど見渡しても敵にマークされている味方ばかりで、トキヤと奇跡的に同じチームになった来栖は主戦力の為マークは2人。時間はじりじりと過ぎて行く。

「トキヤ!」

来栖が飛び出すも、マークは外れない。

「打て!」
「え、」
「トキヤ!」

来栖の言葉に敵がトキヤのシュートを妨害すべく動くが、トキヤの覚悟が決まるのが早い。キュ、とシューズが鳴った。





「やっぱりトキヤとチーム一緒になれて良かったな」
「分かりましたから、放課後に私の家に皆さん集まるのはいい加減やめてくれませんか」

そう言いながらトキヤは人数分のジュースをテーブルに置く。
今日の体育は先生たちの都合で行われた1、2年合同体育だった。来栖のクラスとトキヤのクラスが丁度重なって、バスケットボールのチーム決めの為のくじで見事に2人は同じチームになれたのだ。

「俺もトキヤとバスケしたかったな」

ね、今度一緒にやろうよ、と音也はトキヤに言うも、トキヤは嫌ですと冷たくあしらった。その様子をレンが笑いながら見ている。

「体育って俺たち受験生から見たら勉強しなくていい唯一の教科だからさ、楽しくなるよね。ね、シノミー?」
「僕は皆さんと一緒にいられれば楽しいですよ〜」

その隣で、聖川は言う。

「体育など、好きではない」
「え、それトキヤじゃないの?マサも嫌いなの?」

うむ、と聖川が頷いた。

「汗をかくことはいいことだ。だが、汗でべたべたと衣類が張り付くのがどうも嫌なのだ」
「と言いながら案外真面目にやってるよな」

来栖が言うには、聖川のクラスが体育の時間は教室授業の為丁度校庭が見えると言う。聖川は目立つのでその姿を見つけるのは簡単なのだ。
その後も暫く談笑をして、辺りが暗くなったところでトキヤがさて、と立ち上がった。

「話はこれくらいにして、いい加減帰ってもらえますか」

えー、と大ブーイングが起こるも、トキヤは気にしない。いつもいつも皆がお開きになるのを渋るのだ。だが、楽しい時間をトキヤも少し名残惜しんでいるのを皆は知らない。

「……また明日、にしましょう」

トキヤの口から、そんな言葉が出るようになるのはもう少し先の話。


//楽しい時間はあっという間