※天使じゃない音→→→→→トキ
※トキヤは音也のこと好きじゃありません。寧ろほも?え?ないわ。くらい。
※ほもドラマ撮った後
自宅に帰るなり、トキヤは洗面所でごしごしと何度も顔を洗っていた。擦りすぎても肌が赤くなってしまうだけなので適当なところで止めておく。が、気持ち悪さでいっぱいな胸の中だけはどうしようもならない。
(最悪、ですね)
風呂が沸くまではあと少し。いつもより少し長めに入って、ゆっくり入念に体を洗おう。と思いテレビのリモコンに手を伸ばしかけたその時、玄関の呼び鈴が鳴った。
ドアを開ける前に訪問者が誰かを見て、ドアのぶに添えた手から力が抜けた。まだ帰宅していないことにしておこう、と背を向けると、ダン、とドアから音がする。
「そこにいるでしょトキヤ。開けてよ。早く」
だんだんと激しさを増すその音に、最初は無視を決め込んでいたトキヤだったがいい加減うんざりしたらしい。ガチャリ、と鍵を開けた途端にドアが開いた。
「やっぱりいた。なに、逃げようとしたの?」
後ろ手でガチャリと鍵を閉めているのを見て、トキヤはすぐに逃げ出したい気持ちになる。この男と密室で2人きりは、まずい。
「…何の用ですか?」
「どうせトキヤのことだろうから、もう何回も洗ったんだろうね」
何を、とは聞くまでもない。そうですね、とトキヤが返事をすると、音也は嬉しそうに笑った。
「さっきはキスまでしかできなかったし、この際最後までいこうかなって」
一瞬ぽかんとして、けれどまたいつもの顔に戻る。冗談はよしてください、と背を向けてリビングへと向かうトキヤの後ろを音也は着いて歩く。トキヤはこの時必死に頭を回転させていた。どうすればこの男から逃げられるかを。
(ソファに音也を誘導して、座らせればいい。その間にお茶を淹れるとでも言ってキッチンへ向かうふりをして逃げるしか…)
ソファからキッチンは見えない。けれどキッチンからはソファの背後が見える。これしか方法はない、とトキヤは思った。
案の定音也は自分の後ろを着いてくる。リビングに着くと、トキヤは音也をソファに座るよう促した。自分はお茶でも淹れてくるから、とひとまずキッチンへ向かう。音也が座った時に逃げればいいと。
音也がよいしょとソファに座ったのを確認して、音を立てないように玄関に向かって歩く。
「ねえトキヤ」
それを見計らったように音也が名前を呼んだ。
「…なんですか」
「リモコンどこ?」
ばくばくと心臓が忙しなく動いていたが、自分の行動に気付いたわけではないらしいことにほっとする。ほっとして、忘れていたのだ。
「リモコンなら、そこにしまってあるはずですが」
と、ソファへと近づいたトキヤの腕が取られて、一瞬の内に暗転、トキヤの視界には音也越しに天井が見えた。
「お、とや…!」
「うん」
リモコンは、テーブルのすぐ上に置いてあった。音也が来る前にテレビをつけようとして、自分でそこに置いたのだ。目の前にあるのに、見つからないわけがないのだ。それでもトキヤがソファに近付いたのはそのリモコンがテーブルの上に無かったからで、そのリモコンはというとにやりと笑う音也の手にちゃんと握られていた。
「折角キスしたのに、駄目じゃんトキヤ」
つーっと指先で唇をなぞられて、背筋がぞわりとする。近付く音也の顔から逃れようともがくが、狭いソファの上で満足な抵抗はできない。
「…っ、」
せめてと唇をかたく閉じれば、舌打ちをした音也の指が無理矢理それをこじ開けた。絡みあう舌と唾液が、ぴちゃぴちゃと部屋に響く。身動きが取れないトキヤは耳を塞ぐこともできず、全身に鳥肌がたつのを感じていた。
「っやめなさい音也!私はこんなこと…!」
やっとの思いで顔を逸らして言えば、音也はいつもの笑顔でこう言った。
「トキヤは俺に愛されてればいいんだよ」
お前の気持ちなど関係ない、と。
//俺に愛されてればいいんだよ