▽ 嚆矢濫觴 全てここから
はぁっ、はぁっ。
駐車場から玄関まで、そんな僅かな距離すらもどかしい。
その距離を全力で走って、いざ玄関に着いて少し冷静になった。……なんでこんなに必死になっているんだ。誰も見ていないとは言え、気恥ずかしさに襲われる。
しかしここまで来て引き下がることもできず、少しだけ躊躇して、福島はチャイムを鳴らした。
茨城と宮城が何やら話をしていたことは知っている。険悪な二人の様子は、もしかして、自分があんな相談をしてしまったためではないか。そんな考えがぐるぐるぐるぐる。
しかし直接聞く勇気も時間も無く、気付けばこんなに日付が経ってしまっていた。
いい加減、直接伝えるべきなのかもしれない。
そろそろ適時だ。そんな考えに突き動かされるように、こんな夜更けに車を飛ばしてきてしまった。
……迷惑だろうか。いやいや当然だろう。
迷惑ついでに、はっきりさせてくれればいいのだ。こんな自分が不釣り合いなことも分かっている。だからこそ、このままの関係で安住していたいという気持ちも未だ十二分になる。しかし。
(そんな曖昧な態度は、茨城を困らせるだけだよ)
いい加減、はっきりさせてきたら?そんな誰よりも信頼できる友人からの言葉に、背中を押されてしまった。
ガチャリ
やや眠たげな目をしていた茨城。だが、福島の姿を見るや否や、その目を大きく見開いた。と同時に、りんごのように赤くなる両頬。
そんな姿も愛らしいな、なんて頭の隅の冷静な部分が思うものの、福島自身にはそんな余裕はなかった。
あれ、……あれ?
なんだかいつもと違う茨城の様子。
「……なぁ福島、もしかして、何か話があったり……する?」
「う、うん」
「……俺も、なんだ」
あれ、れ。
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