果てはしないこどもの世界
あれから祐希はやたらと前より引っ付いてくるようになった。
今もベタベタと引っ付かれている。
『え、春って叔父さんなの!?』
「もうすっごくかわいんですよ」
「まあお月さまがどーとか言っちゃうあたり春の血がしっかり受け継がれてる感じはするよね」
「春あのあと言ったのか?」
「? 何をです?」
「月だよ。誰についてきてるわけでもねえってこと」
春からポッキーを2つもらい、食べていると、もう一本は祐希に食べられた。
『あ!』
「オレのあげるよ」
『ありがとー』
悠太から一本もらった。
すると、なぜか祐希にまた食べられた。
『祐希、なんで食べるの!?』
「いいじゃん別に」
『よくない!』
「こらこらケンカしない」
もぐもぐと口を動かす祐希を睨むと、悠太に宥められた。
そしてもう片方も何やら邪悪な空気が漂っていた。
「要くんてそういうとこほんとかたいですよね」
「…お前こそふわふわすぎるその脳みそをどーにかしたらどうだ」
『ケンカ?』
*
「春くんおかえりーっ」
「ただいま」
学校の帰りに春の家にお邪魔させてもらうことになった。
出迎えてくれたのは、小さくて可愛い女の子。
この子が、春のめいなのか。
「お、お友達?」
その子は急に人が大勢で来たからか、緊張してるみたいだった。
「この子がめいっ子の舞音ちゃんです」
「は、はじめまして」
「ども、おじゃましますね」
『かわいー!』
「こら愛、あいさつくらいしなさい」
よしよし、と舞音ちゃんの頭を撫でると嬉しそうに目を細めた。
「春くんのお友達って王子様みたい…」
『お、よかったねー2人とも!』
「……」
「からかうのはやめなさい」
「お姉ちゃんはお姫様みたいー!」
『え、ほんと!?ありがとー!』
「はっ、姫?」
『なんか言った要』
じとりと睨むと、顔だけだろと言われた。
リビングに入ると、春がジュースを出してくれた。
ちゅー、と飲んでいると、舞音ちゃんが話し出した。
「月に住んでるうさぎさんって大変よね」
「え?」
「だって毎日毎日おもちついてるんだもん。疲れないのかなあ」
「それは…」
『舞音ちゃん純粋…』
「お前と違ってな」
『なに要』
わたしも舞音ちゃんくらいの時はこんな可愛いこと言ってたのかなあ。
でもなぜか幼稚園児のくせに大人びている悠太や祐希や要がいたから、そんなことは悲しいことになかったのかもしれない。
「わー、すごーい」
テーブルの上を見ると、18色で描かれた虹の絵があった。
「やってられん」
要がため息をついた。
『これなあに?遊園地?』
虹の絵の他に水の中に遊園地がある絵があったので、聞いてみた。
「これはね海の中に遊園地があってね、好きなだけ遊べるの」
「でもそれじゃあ息できねえだろ」
「大丈夫。ホラ、みんな空気が吸えるホースしてるから」
舞音ちゃんの描いたホースは水の外には出ていなく、現実的に考えれば無理だ。
でも、そこが小さい子の可愛いところだ。
「違う違う。先っぽが水面に出てないと空気吸えねんだよ。貸してみ」
現実主義な要は、テーブルの上に転がっていた鉛筆でホースを伸ばした。
『あらら…』
なんか可愛くない。
すごい伸びてしまったホースのせいで、可愛さがなくなった。
「ホラ、こうしたらちゃんと吸え…」
舞音ちゃんの目にじわりと涙が浮かんだのが見え、要は固まった。
『あーあー、要がいらないことするから』
「あーらら、こんな不恰好にしちゃって」
「なっなんだよオレはただ…わーったよ消すよ消す!」
じとー、と要を見る祐希と悠太とわたし。
要は急いで消しゴムで消そうとしたが、舞音ちゃんはそれを止めた。
「…も、いい」
『舞音ちゃん、なんか食べたいものある?』
「…雪んこだいふく」
「だって。5つね」
「それお前らの分入ってんだろ」
わたしはしょうがないお兄ちゃんだねー、と言ってぐすりと泣く舞音ちゃんの頭を撫でた。
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