月の夜明け




私達は急いでリクオくん家に戻ると、リクオくんは早々に自室に向かった。それを私は見送ると、家に戻る。これからの事を予想しながら。
家に入ると、式神に迎えられた。遅かったですねと言う式神に仕事に行く、と言うと頷いて奥へ引っ込んだ。

『こっちに戻ってくるときにリクオくんに聞いたの。三代目を継がないという回状を廻さないと、ゆらちゃん達が危ないって脅されてるってことを』
「それはどんな妖なんですか」
『鼠の姿をしてた。顔だけ変化してたから全体は分からないけど、強い邪気は感じた』

仕事着に着替える手を動かしながら会話をする。
式神は奥から持ってきた天穴を壁に凭れかけさせると、足元にいるフェリシーに声を掛けた。

「どう思いますか」
「……」
「それは窮鼠かもしれない、と」
『窮鼠?』
「話によると、随分前に破門されたそうです」
『破門?奴良組に?』

フェリシーに視線を向けると、コクリ、と頷かれた。
そう、と呟いて考える。
奴良組に対する逆恨みなのか、それとも別の何かが関わっているのか…。

『…とりあえず、行ってくる』
「では私は消えますね」
『うん、ありがとう』

式神は私に天穴を渡すと、音を立てて紙へと戻った。
これから術を使うかもしれない私の体力を気遣ってのことだろう。
玄関で座って私を見つめるフェリシーに向かって行ってくるね、と言った。







『えーと…』
「守里さん!」
『あ、首無さん…』

ざわざわと庭に広がる妖怪達を見てどうしよう、と見ていると、見知った顔がこちらへ向いた。

「若から話は聞きました。大丈夫でしたか」
『ええ、まあ…』
「これから出入りなんですがその様子じゃ…守里さんも行くようですね」
『きっとこうなるだろうと思っていましたから。…それより、リクオくんは…』
「ええと、若は…」

困った風に首を傾げて微笑んだ首無さんに、私も首を傾げる。すると、あ、と何か言いたげに目線を私の背後にやる首無さんに私もつられて振り返った。

「この姿で会うのは初めてだな。…守里ちゃんも行くのかい」
『…えっと…どちら様…』

私より随分と背が高く、鋭い目付きに棚引く長髪。感じる邪気は周りの妖怪達とは違うもの。
青い羽織を緩く羽織ったその人は、私の記憶中には全く覚えがない。
しかし向こうは私のことを知っているみたいで、何となく申し訳なくなりながらもその人に聞いたのだ。

「この方はリクオ様ですよ」
『ええ!!リクオくん!?』

首無さんが妖怪の姿のリクオくんだと教えてくれる。
私は急なことに理解ができない。…いや、だって全然違う…。
私が妖怪の姿のリクオくんをジッと見ていると、気付いたリクオくんは怪し気に微笑んで私の手を優しく握った。

『え、え…!』
「さぁ、行こうぜ」

何この大人な雰囲気は!?と戸惑う私に振り返る事もなく、妖怪のリクオくんは片手に妖怪の提灯を持ちながら私を引っ張って歩きだす。
そして私達の後ろを多くの妖怪達が付いてくるのだ。

『(何この状況、何この状況ぉ…!)』
「守里ちゃん?」
『は、はい!?』

ゆらちゃん達が捕まっている一番街に向かって歩いているのは理解出来るが、なぜこの人に手を掴まれているのか。全く分からない。
悶々と頭を悩ますこの人にいつになったら離してくれるのか、と思っていると不思議そうに声を掛けられた。

「無理はしなくていい。…何かあれば、オレが守るぜ」
『……』

その言葉にぐるぐるとしていた脳内が冷静になった。

『…私はちゃんと自分で守れるから!』

何のために今まで修行してきたと思ってるの!という意味を込めて噛み付くように言えば、リクオくんはフッと笑う。私達の後ろでは、妖怪の姿になったつららちゃんが物凄い視線で私達を見ていた。



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