月の夜明け




『…うわ』
「どうかした?」

通学路の横断歩道に向かっていると、電柱に透き通って見える存在。

『いや、何でもないよ』

カナちゃんには見えない存在。
この街は妖の力が強く、見える人たちが多いみたいだが、"霊"が見える人は少ないようだ。

霊のいる電柱を通り過ぎようとした時に小さく聞こえた言葉に、足を止めてしまった。

『ごめん、忘れ物しちゃったから先に帰ってて?』
「ええー、じゃあ一緒に戻ろうかー?」
『大丈夫だよ。もう夕方だし先に帰って?』
「守里も帰り気を付けなよー。じゃあまた明日ー!」

手を振って歩いていく姿が見えなくなると、霊に向かって話し掛けた。

「あなた…私が見えるの」
『早く成仏した方がいい。この街は危険だから』

妖怪に喰べられても知らないからね、と言うと片目を失っているその女性が感情の篭っていない冷たい声で答えた。

「探し物をしてるの」
『さっきも聞こえたけど…それが未練なの?』
「そうよ、あれが無いと…成仏できないのよ」

ちょうどいいわ、と私の腕が掴まれ、その強い力に顔を顰めた。

『(面倒なのに巻き込まれた…)』





『とりあえずこんな道端で1人で喋ってるなんて不審だから、家まで来てくれる?』

そう言うと腕から手を離しこくりと頷き、大人しく後ろから付いてくる。

『(こんなことが時音ちゃんに知られたら何を言われるか…)』
「あ、守里ちゃんおかえりー。カナちゃんから学校に戻ったって聞いたけど…って、なにそれ…」

なんか後ろに見えるんだけど…と顔を青白くするリクオくん。

『この人は道端で…』
「いや、でもそれって幽霊…」
『…人を呪い殺そうとするような目をしてたし危険だったから連れてきたの』
「それって守里ちゃんも危険なんじゃ…」
『大丈夫。ちゃんと縛っておくから』

掌から念糸を出し女性の手首を前で括り、念糸を手に巻きつけて持った。

『暴れたら強制的に成仏させるから』
「(恐…)」
『じゃあそういうことだから、明日は先生に一応言っておいてくれない?』
「え、休むの?」
『ちょっと時間かかりそうだし…』

そう言えばふうん、と後ろの霊を見るリクオくん。

「明日の午後からじゃだめ?明日は午前中までだし、ボクも手伝えるから…」
『リクオくんには関係ないことだし…こういうことも仕事のうちだから大丈夫』
「関係ないって…じゃあボクが学校を休んで手伝うことにも文句言わないで」
『…え?何言ってるの?』

俯いたと思えば何やら顔を怖くさせながらすごいことを言われた気がする。

「ボクが何するにしても守里ちゃんには関係ないことだから」
『…怒ってるの?』

そう言えば怒ってない!と怒鳴られ、リクオくんは家に戻ってしまった。

『…なにあれ。リクオくんらしくない…』



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