月の夜明け




春がとっくに過ぎた頃、その日は急にやってきた。

『ただいまー』

学校の鞄を玄関に置いて制服のまま、外に出ようとした。
今日は友達と遊ぶ約束をしているからだ。

「ああ、帰ったか守里」
『あ、ただいまー』
「ちょっと来なさい」
『…?』

…珍しい。
おじいちゃんが私にあんな真剣な顔で言うなんて。

玄関で靴を脱いでおじいちゃんの後をついていくと、数ある和室の一室に入り、襖を閉めた。

「お前に話がある」
『話?』
「ここの所、烏森以外の場所でよく妖が出る場所があるらしい。ここから少し離れた浮世絵町と言う所なんじゃが…わしはここを離れるわけにはいかん。…どうじゃ守里。お前、行ってみんか?」
『え、私が?』
「浮世絵町のことはまだ詳しくはわからん。お前には浮世絵中学校に通ってもらうことになるんじゃが…」
『私にできることならやりたいけど…じゃあ私一人暮らしなの?』

眉を寄せて不安気に言うと、おじいちゃんは、なに、たまには式神を飛ばしてやる、と言うから安心して溜め息をついた。

『じゃあ話は終わり?』
「ああ…」
『じゃ、遊びに行って来まーす!』

玄関に向かってドタドタと廊下を走っていく。
外に出たときにちょうど入って来ようとしていた良兄がいて、お前、玄関に鞄置きっぱなしだぞ!と言われたが無視した。

「こら守里!修行をせんかー!!」
「うるせー…」

耳を塞ぎながらも良兄は遊びに行くならさっさと行け、と言ってくれる。

『いってきまーす!』
「おー、気をつけろよー」



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